江戸の料理や菓子をめぐる短編六作を収録した、時代小説アンソロジー。
餡子は甘いか 畠中恵
『しゃばけ』シリーズより。
老舗菓子屋安野屋に奉公している栄吉。相変わらず餡子はどうしても焦がしてしまう。管理を任された倉の中、砂糖の量の変化に気付いた栄吉は、得意先の下男が砂糖を盗み出している現場を捕えた。だがその小器用さ、舌の確かさが見込まれて、職人見習いとして安野屋で働くことに。あっという間に立場を抜かれて、栄吉は落ち込んでしまう。
鮎売り 坂井希久子
『居酒屋ぜんや』シリーズより。
居酒屋の美人女将お妙は魚河岸で、傷物の若鮎を売っている少女に出会った。調理をしながら、少女と己の帰し方を重ね合わせ、亡き夫善助や何かにつけて元気づけてくれる義姉お勝を思い起こす。
料理茶屋の女 青木佑子
『薬師 守屋人情帖』シリーズより。
先日長屋で起こった亭主殺し、その女房は料理が上手く、特に煮豆が絶品だった。とある料理茶屋の煮豆の味が変わったと聞いて、守屋はそこに勤める女中を訪ねる。手伝いの娘を使って惣菜を料っていた女房、昼間に戻って来た亭主。そこにはどんなやり取りがあったのか。
桜餅は芝居小屋で 中島久枝
『浜風屋菓子話』シリーズより。
呉服・太物屋の川上屋が、毎年お得意様をもてなすため配る桜餅を、今年は二十一屋ではなく東野若紫に頼むという。おかみの。冨江ではなく、嫁のお景の采配らしい。斬新な着こなしでファッションリーダーとして君臨するお景を、売り上げは伸びているが、冨江は面白くは思っていない。調子に乗ったお景は、やがてしっぺ返しをくらってしまう。
清正の人参 梶よう子
『御薬園同心 水上草介』シリーズより。
小石川御薬園に、阿蘭陀通詞の野口伊作がやって来た。二年後の阿蘭陀商館長(カピタン)来訪に備えての下見だとか。西洋にかぶれた野口は、御薬園にセロリがあるのを見て驚く。自分の中途半端な出自とも重ね合わせて。
お勢殺し 宮部みゆき
『初ものがたり』シリーズより。
醤油の担ぎ売りお勢の死体が大川で上がった。大女のお勢は父親の病気以降、卸先の問屋野崎屋の手代・音次郎に入れ上げていたが、音次郎はお勢を邪険に思っていたらしい。その日は丁度薮入りで、川崎の実家に帰っていた音次郎にお勢は殺せない。だが、茂七親分は音次郎を嫌疑から外せない。
近頃出始めた屋台の稲荷寿司屋で蕪汁を食べていて、茂七は音次郎のアリバイ工作に気付く。…
アンソロジーだ、と気付かず予約を入れた一冊。
畠中さんと宮部さんの短編は読んでましたが、それ以外は初読の作家さんばかりでした。
面白かったです。そうか、料理してる手際を描写してるだけで絵になるんだな。
『鮎売り』(坂井希久子)は、何だか『みをつくし料理帖』のシリーズを連想したんですが、本当に「高田郁賞」っての獲ってらっしゃるんですね。
反対に、関西風(京風)が美味しいとか決めつけてるんじゃねぇ、と言わんばかりの『桜餅は芝居小屋で』。ああ、でもごめんなさい、私やっぱり桜餅は道明寺粉使った方が好きです(苦笑;)。関西風桜餅の出自と言うか言われは初めて知りました。供物のおさがりだったのか…。セロリが戦国時代に朝鮮から持ち帰ったもの、というのも。…別に持ち込まなくてもよかったのにねぇ(←セロリ苦手;)。
青木佑子さんの作品は一度読んでみたかったので嬉しかったです。また機会があったら読んでみよう。