読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

華胥の幽 十二国記 小野不由美著 講談社X文庫ホワイトハート 2001年

 十二国記シリーズ短篇集。

 「夢を見せてあげよう」――しかし、荒廃と困窮を止められぬ国。采王砥尚の言葉を信じ、華胥華朶の枝を抱く采麟の願いは叶うのか。『華胥』
 「暖かいところへ行ってみたくはないか?」――泰王驍宗の命で漣国へと赴いた泰麒。雪に埋もれる戴国の麒麟が、そこに見たものは。『冬栄』
 峯王仲韃の大逆を先導した月渓は、圧政に苦しむ民を平和に導いてくれるのだろうか。『乗月』
 陽子が初めて心を通わせた楽俊は、いま。『書簡』
 柳国王都芝草にて、利広とは風漢と再会した。傾きかけた国で出会うことが多い二人、お互い正式に名乗らぬまま、柳国や奏国・雁国について語る。『帰山』
 希う幸福(ゆめ)への道程を描く短篇集、ここに!!
                (折り返しの紹介文に付け足しました)

 『冬栄』については『白銀の墟 玄の月』を読む前に読み返していましたが、それ以外は再読じゃないかな。改めて読むとやっぱり泰麒かわいい(笑)。『白銀~』で出てくるエピソード「近道」がここでもう書かれてたんですね~。そしてこの間に戴国では大粛清が行われていた訳だ。
 『華胥』については、前半をほとんど忘れてました(爆!)。采麟あんな風に病んでたのねこりゃ周囲も辛いわ、そうだ殺人事件あったんだっけ、てなもんで。で、『乗月』もそうですが、この理屈っぽさがいかにも小野主上なんだよなぁ。前半をほぼ覚えていなかった理由、というのははっきりしていて、ラストの「責難は成事にあらず」があまりに印象が強かったから。いや、何しろ自分にイタかった。あと、本当のどんでん返しに、読んだその場で気付けなかった自分も思い出しますし(←自業自得じゃん・苦笑;)
 十二国記には本当、我と我が身を反省させて頂きました。で、読み返すとその当時のイタさをまた思い出しましたよ。

物語の種 有川ひろ著 幻冬舎 2023年

 読者その他から「物語の種」を募集、そこから発想を広げた短編集。

 第一話 SNSの猫
 この半年ほど、彼女の推しは近所の保護猫カフェの一匹だった。まるでタキシードのような白黒模様、名前はずばり「タキシード仮面さま」。SNSに上がる画像に身悶えする日々、だがある日、彼が迷子になってしまったとの投稿が。矢も楯もたまらず、後輩に背中を押されたこともあって、彼女も猫の捜索にの協力を申し出る。

 第二話 レンゲ赤いか黄色いか、丸は誰ぞや
 妻の祖母が亡くなった。古いアルバムを見ながら、夫に野に咲く花についてレクチャーする。
 夫の父が亡くなった。大河ドラマの思い出話から、夫は妻に歴史知識を披露する。

 第三話 胡瓜と白菜、柚を一添え
 夫の実家、静岡の義父母はどちらも料理好きで色々張り合う。挨拶に行った時に始まって、今では孫に裁定を乞う。

 第四話 我らを救い給いしもの
 彼女とは、本を介して親友になった。好みも似ていて、推しはほぼ一緒、折角楽しかったのに、男子の一言が冷水になった。こちらに寄り添ってくれた友、彼女はいつも自分の味方だった。

 第五話 ぷっくりおてて
 ラブラブの両親の差し金で、夏休みはいつも鳥取の祖父の元に預けられた。「お祖父ちゃんっ子」との称号に不満を抱きつつ、でも彼女との切っ掛けも、田舎で出くわしたヤモリが関係していた。

 第六話 Mr.ブルー
 リモート会議で映った研究所長の後ろには、宝塚のトップスター生駒礼人さまのカレンダーが見事に額装され掛かっていた。同じく宝塚ファンの部下は所長の、仕事にも繋がる熱い志に薫陶と感銘を受ける。

 第七話 百万本の赤い薔薇
 出張帰り、結婚一年目の妻に和紙の文箱を贈った。紙婚式、綿婚式、革婚式…鉄婚式以降は、結婚記念日のごちそうはすき焼きになった。

 第八話 清く正しく美しく
 個人経営のエステサロンに雇われ、薄給で働くスタッフ。常連客もついてくれているが、詐欺まがいのドリンクを売りつけさせられるのは苦痛だ。ストレス発散も兼ねて訪ねた百貨店で、宝塚OGが開発した商品に出会う。

 第九話 ゴールデンパイナップル
 祇園祭の日。浴衣に身を包んだカップル、それを見て自分の娘が選んだちびかわ柄の浴衣を思い出す父親、彼に日報についてこまごま指摘を受けてむしゃくしゃしている準社員女子、キャラ浴衣を切っ掛けにコスプレにハマり、伴侶まで見つけた彼女…。同じ電車に乗り合わせた人々が、梅田駅のジューススタンドに集う。

 第十話 恥ずかしくて見れない
 会社の先輩が宝塚歌劇沼にハマっている。布教話を聞いていたら、実家の伊丹に帰省した折、観劇に誘われてしまった。先輩の視野に入りたいが故に馳せ参じたのに、生のスターさんの行動にトキメキが止まらない。…

 そうそう、これこれ!(笑)。有川さんのこの文章、テンポがよくて言葉のチョイスが抜群で、マシンガンのように撃って来る。楽しくて思わずくすくす笑っちゃう。
 今回一番笑わせて頂いたのは、『Mr.ブルー』はじめとする宝塚関連の短編でした。いや、身近に天海祐希さんに惚れて宝塚沼にハマった友人がいるもので(年齢がばれる)、というか関西に住んでたらクラスや職場にほぼ必ず「生まれる前から宝塚ファン」がいたもので。するする溢れる専門用語が、ほぼ何の注釈もなく理解出来てしまいましたよ(笑)。「好き」を前向きに、日常生活まで照らす明るさにする、いいなぁ。
 でも『我らを~』で部誌を「黒歴史」として焼き捨てた二人には、いやそこまでしなくてもいいじゃん、それはそれで記念に置いとこうよ、と思ってしまいました。きっとそれで勇気づけられる後輩もいただろうに(笑)。
 いやもう、読んで元気になれました。楽しかったです。

サエズリ図書館のワルツさん2 紅玉いづき著 創元推理文庫 2023年

 単行本の刊行は2013年。ネタばれになってるかな、すみません;

 戦争(ピリオド)の影響と電子書籍の普及により、紙の本が貴重な文化財となった近未来。“特別保護司書官”のワルツさんが代表を務める、本を無料で貸し出すサエズリ図書館を舞台に、本を愛し本に導かれた人々の物語が始まるーー。
 就職活動に全敗し、希望していた専門職の試験にも体調不良で棄権したチドリさん。自信を失った彼女は、偶然出会った老図書修復家の鮮やかな職人技に魅せられる。その後サエズリ図書館で彼と再会するが、彼は紙の本が稀少化した現実に絶望しており……。(サエズリ図書館のチドリさん)
 図書修復家たちの再出発を描く中編ほか、サエズリ図書館に勤めるサトミさんが、年を取って得た「なりたかったもの」の話(サエズリ図書館のサトミさん)
 サエズリ図書館に執拗に書籍電子化依頼のメールを送って来る電子図書館司書ヒビキ・ユウ、それを拒否するワルツさんの元にマッチと木炭が送られて来た(電子図書館7のヒビキさん)
 ワルツさんに結婚を申し込んだのは、かつて割津教授の下で同じ研究をしていた拝島だった。割津教授の持ち物だったという手帖を彼女に送る拝島。そこに書いてある読書記録と共に、文通でワルツさんとの距離を縮める。図書館に通う人々は、その様子を見守っていた(サエズリ図書館のタンゴくん)…   (中表紙の紹介文に付け足しました)

 シリーズ2冊目。
 色々事象が重なって自分に自信を持てないチドリさん、その大元の原因と「天職」を知る話。…うん、こう言って貰えたら、そりゃ嬉しいよなぁ。
 最終話の拝島さんとのやり取りが、短編ながら結構怖いものでしたね。ワルツさんの「理想の人が現れた」みたいな感じで、うわぁ、申し分なく胸キュンな相手じゃん、と思ってたら。…いや、これ、ここまで周到にお膳立てされてるのに、ちゃんと違和感に気付くワルツさん凄ぇよ、どこまで冷静な人なんだよ(笑)。
 どうやらワルツさんにはタンゴくんが付き添う様子、あとがきを見ると続きが出そうな気配が無きにしも非ずなんですが。気長に待ちます(笑)。

ボケ日和 わが家に認知症がやって来た! どうする? どうなる? 長谷川嘉哉著 かんき出版 2021年

挿絵はカラテカ矢部太郎さん。

認知症の進行具合を、春・夏・秋・冬の4段階に分けて、そのとき何が起こるのか?どうすれば良いのか?を多数の患者さんのエピソードを交えて描いた、心温まるエッセイ。

人生100年時代、誰もが避けられない道
知っていれば、だいたいのことは何とかなるもんです。
認知症専門医が教える、ボケ方上手と介護上手  (出版社紹介文より)

 美容院で父親に付いて愚痴ってたら、美容師さんから「カラテカの矢部さんがそういう本を描いている」と情報を頂きまして。その類いの本なら漫画でも図書館に置いてるんじゃないかと検索を掛けたら、こちらの本がヒットしました。
 手に取ってびっくり、あれ、漫画じゃない、「思ってたんと違う」(笑)。そうか、矢部さんが描いた漫画の原作でしたか。それならそれで情報量も多かろう、と読み進みました。
 ああなるほど、と思い当たる所もあれば「そんな可愛いものか?」と思う箇所も。デイサービスを推奨してらっしゃるのは分かるんだけど、あれ身支度させるのも面倒なんだよなぁ、毎回毎回「どこに行く」「何しに行く」って訊いてくるし、行ったあとは何度も「どこに行った」「何しに行った」って訊いてくるし。その症状も軽度のそれなんだよなぁ、「イライラはするんですけどね」と一言添えては下さってるのにはほっとします。でもまだまだ酷くなるんだよなぁ。
 介護される側の性格の可愛げで、かなり介護する側の負担、特に心理的負担が変わってくる気がします。何しろ「自分は悪くない」と頭からこちらのことを否定してきたりするので、どうしてもムッとするし(苦笑;)。
 介護する側に息抜きが必要、ゆとりが必要という言葉は心強いです。介護する側がどれを耐え難いと思うのかも、個人差があるよなぁ。「事前の知識が重要」というのはその通りだと思います、祖母が「ご飯食べてない」と言った時も「家に帰りたい」と言った時も、「本当にこういうこと言うんだ」と言う感想の方が先に来たので。

夜果つるところ 恩田陸著 集英社 2023年

 ネタばれになるのかな、すみません;

執筆期間15年のミステリ・ロマン大作『鈍色幻視行』の核となる小説、完全単行本化。
「本格的にメタフィクションをやってみたい」という著者渾身の挑戦がここに結実…!

遊廓「墜月荘」で暮らす「私」には、三人の母がいる。孔雀の声を真似し、日がな鳥籠を眺める産みの母・和江。身の回りのことを教えてくれる育ての母・莢子。表情に乏しく、置き物のように帳場に立つ名義上の母・文子。ある時、「私」は館に出入りする男たちの宴会に迷い込む。着流しの笹野、背広を着た子爵、軍服の久我原。なぜか彼らに近しさを感じる「私」。だがそれは、夥しい血が流れる惨劇の始まりで……。

謎多き作家「飯合梓」によって執筆された、幻の一冊。
『鈍色幻視行』の登場人物たちの心を捉えて離さない、美しくも惨烈な幻想譚。 (出版社HPより)

 『鈍色幻視行』内で謎多き作家 飯合梓が書いたとされる幻想小説。装丁もそれを模して、中表紙や奥付が二重に付いてる凝りようです。ふふふ、嬉しいww
 面白かったです。時代掛かった舞台風景、演出。いかにも外連味たっぷりに描かれる遊廓、登場人物。『鈍色幻視行』で心中事件を起こした男女、ってのは和江と義弟の役の人なのかな、それとも久我山と莢子なのかな。なるほどこれは映画化よりも舞台化の方が映えるわ、実際やってみたい舞台人出て来そうですね。どちらにしろ、語り手となる主人公が肝ですね。違和感なく少女を演じられるか。舞台ならまだしも、映画ではバレてしまいそうですが。
 そう、『鈍色幻視行』でされていたネタばれを、読み進めるうちわたくしすっかり忘れておりました!(爆!) 近年嘆いていた物忘れの酷さが、ここにきてこんなプラスに出るとは! クライマックスで主人公の性別が明かされて、「そういやそうだったわ!」と新鮮に驚いてしまいましたよ、老化ばんざい!(笑)
 この作品を脚色するに当たって、語り手を女性にするとまるでお話が変わってしまう、というのもよく分かりました。『鈍色幻視行』の答え合わせもできて得した気分です(笑)。
 どちらの作品を先に読むか、ってのは人それぞれでしょうが、私はこちらを先に読んだ方がよかったかもな、どんでん返し忘れてたとはいえ(苦笑;)。こちらを読んで、『鈍色~』読んで、さらに『夜果つる~』を読み返してほくそ笑む。これが正解な気がします。さらに『鈍色~』を読み返せたら完璧ですね、ちょっと長いけど、拾い読みだけでも。

酒見賢一さん

 ネットで訃報に出くわしました。

 何人もの方が言ってらっしゃることですが。
 日本ファンタジーノベル大賞、第一回目に酒見賢一さんが『後宮小説』を応募していなかったら。
 日本のファンタジーは今のような盛況を呈していたか。少なくとも、中華風ファンタジーというジャンルはもっと小さかったと思います。

 「ファンタジー」に架空歴史小説を当て嵌める発想力。勿論その前に田中芳樹氏も『銀河英雄伝説』を始めていたし、萌芽はあったのかもしれませんが、それでもそこに西欧ではなく中華を、魔法や超能力のない世界を持ってくる勇気。概念を覆すようなことなのに、それを認めさせるとんでもない面白さ。私も喜んでねじ伏せられたクチでした。
 その後の作品も、全て読ませて頂いています。圧倒的知識量や解釈で、新しい視点を教えて下さいました。

 新刊が出たら、必ず読む作家さんのお一人でした。もっともっと作品を読みたかった。あまりにも早い、惜しい。
 ご冥福をお祈り致します。

鈍色幻視行 恩田陸著 集英社 2023年

 ネタばれになってるかな、すみません;

 『夜果つるところ』――作家 飯合梓のデビュー作にして代表作。妓楼の中で暮らす、三人の母親を持った子の物語は、映像関係者を惹き込んだ。三度映像化が具体化されて、その都度不幸な事故が起き、「呪われた映画」と囁かれるようになった。
 小説家 蕗谷梢はこれを題材としようと、クルーズ船に乗り込む。『夜果つるところ」の関係者の集いに加わり、彼らにインタビューをするために。
 真鍋綾実と詩織の漫画家姉妹は飯合梓の熱狂的マニアにしてコレクター。自身、母親との確執を持つ。
 角替監督は『夜果つるところ』の最初の映画化の際の助監督だった。最初の妻だった女優の玉置礼子を、撮影中の事故で亡くしている。現在の妻 清水桂子も乗船していて、彼女は二度目の映画化の時、母親の一人として配役されていた。
 『夜果つるところ』文庫化の際の編集者 島崎四郎とその妻 和歌子。島崎四郎は飯合梓と実際に対面したことのある数少ない人物で、『夜果つるところ』の元本になった私家本をこの船旅に持ってきた。
 二度目の映画化の際のプロデューサー進藤洋介。撮影現場の様子や、映画化への想いを語る。
 90歳近い映画評論家 武井京太郎は、現在のパートナー 九重光治郎と共に。光治郎の大叔父は、一度目と二度目、両方の映画に参加していた小道具係だった。武井京太郎自身は、飯合梓と面会したことがあると言う。
 そして、梢の夫 蕗谷雅春。彼の前の妻 笹倉いずみは脚本家で、三度目の映画化の際、脚本を書き上げた直後に自死していた。
 それぞれの思い出話に感化されて、記憶が引き出されて行く。一度目の撮影現場での火事、二度目の密室での心中事件、三度目の脚本家の自死に次いでカメラマンの突然死。作家本人の去就も、二人説があったり 死亡証言が二度あったりしてはっきりしない。
 船の中で、寄港先で、様々な証言や意見が繰り出され、やがてそれぞれの中で一定の解釈に辿り着く。飯合梓の正体は、映画での災厄は。…

 面白かったです。恩田陸版『毒入りチョコレート殺人事件』。
 脱線したり枝葉を広げたり「あるある」を繰り広げたりしながらの会話劇、楽しくて仕方ない。「昔読んでインパクトがあった本を読むのって緊張する」「ある一定の年齢でないとインパクト受けない類の本ってあるよな」「ある程度の地位と固定ファンを得た中堅作家はなかなか書評でも取り上げてもらえなくなる」(直木賞等はそのカンフル剤になるのかな)、そうそうこの感じ、とついつい頬が緩んで来る。
 原作者が持つ映像化への感想も、これは恩田さんのものとして読んでいいのかな。「嬉しいのと同時に、同じくらい嫌なもの」っていうのは。イメージが固定される、っていうのは単なる読者の私でも思うので。
 三度の映画の事故それぞれの疑問点、飯合梓の正体、語り合う本人たちの屈託、全てに一応ケリがつく。三度目のカメラマンの死には言及されてなかった気はしましたが、その関係者はこの場にいなかったということで(笑)。飯合梓については、あれが真相なら、実際会った人は気付くんじゃないかとは思いましたけど。でも、雅春が涙を流す場面には素直に感動しました。ああ、よかったねぇ、よかったねぇ、ってこちらまで安堵しましたよ。梢の心の傷もいい方向に向かって行ったらいいんだけど。彼女の元旦那には本気で眉を顰めました。
 喫煙室にいたタムラ氏(仮称)は、結局何の関係もなかったのか、というちょっとした肩透かしも含めて(苦笑;)、やっぱり好き。
 さて、これから『夜果つるところ』読みに入るんですが、本編で思いっきりネタばらしされてしまってますねぇ(苦笑;)。恩田さんご本人が何かのインタビューで「『鈍色~』の後で読んでほしい」とか仰ってたのでそうしたんですが、楽しめるかな(笑)。いや、恩田さんを信じましょう!