三越デパートをお題にした短篇集。
ネタばれになってるかも、すみません;
思い出エレベーター 辻村深月
制服の採寸のため老舗デパートに来た大地。天女の像を見上げながら、あの日のことを思い出す。小学校に上がる前、「ちゃんとした服」を買いに来た日、母親からはぐれて不思議なお兄さんに会ったあの日。この店は自分たちの家族の歴史を知っている。
Have a nice day ! 伊坂幸太郎
エンドウさんとは、エンドウさんのお母さんのマルチの大活躍をきっかけに知り合った。高校受験の重圧に潰されそうになっていた「私」フジサキは、三越のライオン像に乗ると願いが叶うという噂を信じ、実行するべく仙台三越に向かう。たまたまその場に居合わせた学校教師の協力も得て、いざライオンにまたがると、フジサキの脳裏に不思議な映像が浮かんだ。十年後、その光景が現実のものになる。
雨あがりに 阿川佐和子
父親の快気祝いを購入するため、母と三越で待ち合せる。父の後妻で、自分とは血の繋がらない母とは、昔の彼氏曰く「思想があわない」。リモート会議で少し離れている間に、すっかりはぐれてしまった。
アニバーサリー 恩田陸
三越の店の様々なものが命を宿し、創業当時からの噂話に花を咲かせる。
七階から愛をこめて 柚木麻子
ロシア人の友達アンナと共に、三越へ来た「僕」奏。ロシア語で従妹に宛てて書いたメッセージは、時空を超えて響きあう。戦前、誇りをもって三越に勤めた女性と、時代を憂う華族の令嬢に。
重命る(かさなる) 東野圭吾
湯川の元を草薙が訪れた。隅田川で見つかった男性溺死体、癌で余名宣告され、恩人たちにお礼回りをしていた最中だったという。遺産を巡って先妻とその子が不穏な動きをしており、殺人が疑われた。果たして、男を撥ねたトラックが特定されたが、遺体が川から見つかった訳が分からない。瀕死の状態で故人自らが川に落ちた意味とは。…
辻村さん、恩田さんの名前を見て借りた一冊でしたが、改めて見ると豪華なラインナップだったんだなぁ。
関西在住の私からすると、三越の特別感 というのはもひとつピンとこないんですが、それでもその特徴、高級感は伝わりました。というか、これに触れずにはいられないんだな、という事柄が結構重なっていたので。ライオン像は勿論、天女がいるんだな、オルガンがあるんだな、食堂というかお子様ランチが有名なんだな、って感じで。
辻村さんの話、すぐ着られなくなる子供服を三越で誂え、ってどんなお金持ちだよ??と反感ぎりぎりでしたが(苦笑;)、祖母の「一番、いいのを」って台詞にはうっかり泣きそうになりました。両親ではなく祖父母、ってのがミソですね、愛情が台詞から溢れ出ている。
恩田さんは豆知識たっぷり、エリザベス女王が昭和天皇に愚痴ったというアメリカに対しての「あんな、こんなところ嫌だって出ていって、独立したって言い張る人たちの前で、一体何を話せばいいのかしらん」には思わず吹き出しました。
伊坂さんのワードセンスはやっぱり好きだなぁ。こんな突拍子もない話、成立を許せるのは伊坂さんならでは(←褒めてます)。
ラストは東野さん、湯川先生の登場にびっくり。こういうお題ありきの作品、得意そうですよね~。相変わらずの安定感でした。