読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

熱帯 森見登美彦著 文藝春秋 2018年

 汝にかかわりなきことを語るなかれ――。そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
 この本に惹かれ、探し求める作家の森見登美彦氏はある日、奇妙な催し「沈黙読書会」でこの本の秘密を知る女性と出会う。そこで彼女が口にしたセリフ「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」、この言葉の真意とは?
 秘密を解き明かすべく集結した「学団」メンバーに神出鬼没の古本屋台「暴夜(アラビヤ)書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」……。
 東京の片隅で始まった幻の本をめぐる冒険は、京都を駆け抜け、満州の夜を潜り、数多の語り手の魂を乗り継いで、いざ謎の源流へ―!

 我ながら呆れるような怪作である――森見登美彦                  (紹介文より)


 汝にかかわりなきことを語るなかれ――。そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
 作家 森見登美彦氏は学生時代、古書店でこの本を手に入れる。不可視の群島、<創造の魔術>によって海域を支配する魔王、その魔術の秘密を狙う「学団の男」、海上を走る二両編成の列車、戦争を暗示する砲台と地下牢の囚人、海を渡って図書室へ通う魔王の娘――。
 堪らなく心惹かれ、大切に読んでいたのに、ある日突然、その本は無くなってしまった。そう言う訳で、森見氏はその本の結末を知らない。
 それから十六年、森見氏は東京で「沈黙読書会」なる会合に参加する。そこで知り合った女性が白石さん、彼女は謎の本「熱帯」について知っていて、彼女との関わりを話し始めた。
 彼女の勤め先鉄道模型店の常連客池内氏との出会い、彼が偶然ホテルの書棚にあった「熱帯」の本を手に取ったこと、でも失くしてしまったこと。その本を、白石さんは学生時代、比叡山麓で出逢った神出鬼没の古本屋台「暴夜(アラビヤ)書房」で手に入れて、やはり結末まで読んでいないままであること。池内氏に連れられて白石さんはとある読書会に参加する。それは「熱帯」を読んだことのある人達が、内容の記憶をすり合わせる集まりだった。うちの一人海野千夜さんは、白石さんを個人的に呼び出して、共同戦線を張ろうと持ち掛けて来る。「私の『熱帯』だけが本物なの」という言葉と共に。千夜は「熱帯」の作者の佐山尚一と知り合いだったらしいのだ。
 千夜は京都へ行き、池内氏も彼女を追って京都へ向かい、連絡が途絶える。白石さんの元には池内氏が常に携帯していたノートが送られて来た。そこには千夜を追った池内氏の行動が記されていた。
 千夜の馴染みの古道具屋、酒場「夜の翼」で出逢った女性マキさんの祖父の「千一夜物語」コレクション、「満月の魔女」の絵。千夜さんの父親栄造氏のものと思われる古いカードボックスには、その夜の行動を予言したかのような言葉が残されていた。
 そして、「熱帯」の物語が立ち上がる。…


 連想したのは恩田陸著『三月は深き紅の淵を』。いや、森見さん、絶対意識してるでしょう!?
 現実と物語世界が入れ子構造になった世界(入れ子というより平行世界か?)、『千と千尋の神隠し』や『耳をすませば』『猫の恩返し』等ジブリ映画の影響も垣間見られる、でも森見さんの世界なんだよなぁ。
 流されるまま読んでいくしかない、不思議な話。私は好きです。