読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

中野のお父さん 北村薫著 文藝春秋 2015年

 〈本の達人〉が贈る新名探偵シリーズ

 体育会系な文芸編集者の娘&定年間際の高校国語教師の父が挑むのは、出版界に秘められた《日常の謎》!

□「応募してませんよ、わたしは」
 新人賞最終選考に残った候補者からの思いがけない一言は?(夢の風車)
□「実は、扱いに困っている手紙がありましてね」
 ある大物作家に宛てた女性作家の手紙には愛の告白が?(幻の追伸)
□「わたしは殺人事件の現場に行き合わせることになったわけです」
 定期購読者の話を聞いているうちに思いもよらない事態に?(茶の痕跡)

 ほか、大手出版社の文宝出版を舞台に繰り広げられる8つのミステリーの推理の結末やいかに……。〈円紫さんと私〉〈覆面探偵〉〈ベッキーさん〉シリーズほか、多くのファンを唸らせてきた名手による、新たな名探偵コンビが誕生。                            (出版社HPより)


夢の風車
 文宝出版の新人賞採取候補に残った作品『夢の風車』。担当になった田川美希が作者に連絡を取ると、作者は応募した覚えがない、という。実際応募したのは一昨年だった、と。一昨年の応募作が今年のものと混ざってしまったのだろうか。中野に住む高校教師の「お父さん」に「ちょっと不思議な話」として話してみると、意外な答えを真相として返してきた。

幻の追伸
 古書店の取材時に、たまたま話に上がった一通の手紙。とある大物作家に宛てた女性作家のもので、奇妙なことに原稿用紙の下のマス何列かを無視した上、終わりの二行が切り取られている。不倫を思わせる内容に、店主も扱いに困っているのだとか。「お父さん」はそこに何が書かれていたか、そこを何故切り取ったのか推理してみせる。

鏡の世界
 加賀山京介の、未発表の画帳が見つかった。遺族から連絡を受けて、美希はカメラマンと取材に向かう。その絵の画像を見た「お父さん」は考え込んで一言。「――裏焼きじゃないかと思ってね」

闇の吉原
 落語好きのミステリ作家と新進気鋭の噺家との対談で話題になった『文七元結』。中の句≪闇の夜は吉原ばかり闇夜かな≫に対して、「お父さん」は過去の文筆を例に引き、幾通りもの解釈を示して見せる。

冬の走者
 とある作家先生の影響で、出版社の何人か、マラソン大会に参加することになった。ところがその最中に、姪っ子のクリスマスプレゼントを買った人物がいる。記録もちゃんと残っているのに、どうやって? 「お父さん」がその謎を解いてみせる。

謎の献本
 先輩から貰った宿題は、謎の献本に関するもの。その作品の作者へ、別の人間が献辞を書いて渡したものがあるらしい。一体どういう経緯があったのか、「お父さん」はそれを知っていた。

茶の痕跡
 雑誌を定期購読してくれている読者に取材に行った。その昔郵便局の配達員をしていたとかで、話題は戦後すぐの郵送本「円本」のことに。当時自分が配達していた区域で、その本を巡って殺人事件まで起こってしまった、という話に、「お父さん」は別の真相を見出す。

数の魔術
 後輩の「トラちゃん」が特集を組んだ≪宝くじおばさん≫が襲われた。毎回30枚づつ宝くじを買って、コレクションしている普通のおばさん。当たっていた訳ではないのに、宝くじを盗まれたという。はずれくじを狙う強盗の真意とは。「お父さん」がとある理由を挙げてみせる。…


 北村さんの新シリーズ。
 面白かったです。特に、『茶の痕跡』は納得したなぁ。一作目『夢の風車』も本当にすっきり解決!って感じでした。でもまぁ、父親の性格にもよるかもなぁ、とはこっそり思いましたけど。うちの父親は負けず嫌いの自分が一番人間なので、娘が手を入れたものがより優れた作品になったとしても、絶対喜ばないな、という確信があるもので(苦笑;)。推理というより、作者の知識量に圧倒、って作品も多かったですね。
 前振りにあたるこまごましたエピソードも、あるある感満載でした。机の引出が別になってて移動がラク、ってのは先日私も職場で体験して、「これ考えた人凄いなぁ」と思ったばかりでしたし。…でもその分、整理整頓の機会を逃すんですけどね;;
 「お父さん」を作者の北村さん本人と重ねてしまうのは仕方のない所ですよね。自分と娘さんとの関係はこんなにいいんだぞ、と胸張って主張しているよう。…っていうのはひねくれた見方かしら。娘さんの意見もちょっと聞いてみたい所ではあります。