読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

中野のお父さんは謎を解くか 北村薫著 文藝春秋 2019年

 連作短編集。シリーズ2冊目。
 ネタばれになってるかもしれません、すみません;

 意外な当て逃げ犯、文豪同士の喧嘩、病床の夫が呟いた言葉の意味。編集者の娘が職場や本の中で出合う謎を父が解く、好評シリーズ。
 日常の謎も文豪の謎もコタツ探偵が名推理! 父と娘の名探偵コンビ日常と本の謎に挑む! お父さんの推理が冴える8篇!                       (紹介文より)


 縦か横か
ベテラン作家川本先生の授賞式で。川本先生は子供の頃の愛読書『クオレ』の翻訳家池田宣政と『ルパン』の翻訳家南洋一郎が同一人物だと判った時のエピソードを披露。なるほど、と思った話として昔投稿欄に載っていた記事についても語り始める。勤め先の駐車場で当て逃げにあった旦那さん、烈火の如く怒って奥さんに愚痴をぶちまける。その真相を、出版社員の美希のお父さんが見抜いてみせる。

 水源地はどこか
松本清張が書いた盗作疑惑を持たれた女性作家の短編。これは作家本人の実体験ではないのか。だとしたら、これを手酷く評した評論家は誰か、またその動機は。中野のお父さんが資料を丁寧に読み解く。

 ガスコン兵はどこから来たか
太宰治の『春の盗賊』中に出てくる「やって来たのは、ガスコン兵」という言葉。これの由来はどこなのか。お父さんは『シラノ・ド・ベルジュラック』を紐解く。

 パスは通ったのか
古書店巡りが趣味の原島先生。先日買った『和本』のDVDディスクの、特典映像が出て来ないらしい。同じものを持っていたお父さんが、そこに犯罪の匂いを嗅ぎ取る。

 キュウリは冷静だったのか
大先輩の元女性編集者との食事会。重病の旦那さんが病室のベッドの上で、奥さんのことを「キュウリだな」と例えたという。この意味が分からない奥さんに対し、お父さんは「干支ではないか」と言い出す。

 『100万回生きたねこ』は絶望の書か
村山先生を中心とした野球大会。狩り出された各出版社の野球経験者のうち、元高校球児手塚が呟く。『百万回生きたねこ』は絶望の書だ、と。話を聞いたお父さんは、その真意を汲み取る。

 火鉢は飛び越えられたのか
徳田秋声泉鏡花の、恩師尾崎紅葉をめぐっての大喧嘩。火鉢を飛び越えて殴り掛かったというエピソードの真の理由を、お父さんは推測してみせる。

 菊池寛アメリカなのか
雑誌の企画で、菊池寛について取り上げることになった。対談を担当して貰う原島先生が、写真を見て言う。「そうか、菊池寛アメリカか…」。そこから往年のテニスプレイヤー マッケンローに話は飛び、それを聞いたお父さんは、原島先生が見た写真を当ててみせる。さて、その意味する所は…


 何かもう、凄いの一言。これは研究者の仕事じゃないのか??って作品もちらほら。
 いや、これは無理がないかい、ってのもあるんですけどね。主人公が出版社に勤めていながら『シラノ・ド・ベルジュラック』を今いち知らない、って設定には首を傾げましたし。…いや、今でも芝居やってんじゃん、過去のものじゃないじゃん。
 好きな絵本の話で『いちごばたけのちいさなおばあさん』が出て来たのには本気で驚いたし、嬉しかった~! そんなメジャーな作品じゃないと思ってたので。
 『100万回生きたねこ』について、かつて雑誌『ダ・ヴィンチ』の「百人書評」のコーナーで「100万回生き返らないと真実の恋には巡り合えないという話」と投稿していた方がいらっしゃって、「何があったんだ『30代男性サラリーマン』!?」と思ったのを思い出しました。そっちの印象があまりにも強く(苦笑;)、だからこの見解は意外ではなかったなぁ。
 さて、「絶望の書」だと言った手塚君に、美希は好印象を抱いた様子、今後も出て来そうですね。