読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

<完本>初ものがたり 宮部みゆき著 PHP文芸文庫 2013年

 岡っ引き・回向院の茂七親分の活躍を描いた連作短編集。

お勢殺し
 醤油の担ぎ売りお勢の死体が大川で上がった。大女のお勢は父親の病気以降、卸先の問屋野崎屋の手代・音次郎に入れ上げていたが、音次郎はお勢を邪険に思っていたらしい。その日は丁度薮入りで、川崎の実家に帰っていた音次郎にお勢は殺せない。だが、茂七親分は音次郎を嫌疑から外せない。
 近頃出始めた屋台の稲荷寿司屋で蕪汁を食べていて、茂七は音次郎のアリバイ工作に気付く。 

白魚の目
 稲荷神社に身を寄せ合って住みついていた浮浪児たちが殺された。お供え物の稲荷寿司に、毒が入っていたらしい。子供たちのお救い小屋を作ろうと奔走していた茂七にしてみたら、やり切れない所ではない。犯人は誰か、茂七たちは聞き込みに廻る。

鰹千両
 棒手振りの魚屋・角次郎が、茂七に相談にやって来た。何でも、角次郎の鰹を千両で買いたいと言う客が現れたとか。客は呉服屋伊勢屋で、先日姑が亡くなり、続けて一人娘も亡くしてしまったのだとか。角次郎の代わりに伊勢屋を訪ねた茂七は、伊勢屋の真意に気付く。

太郎柿次郎柿
 船宿「楊流」の二階で小間物問屋の手代・清次郎が締め殺された。下手人は実の兄・朝太郎、そのすぐ後で身投げをして死んでいる。兄は実家の農家を継ぎ、弟は商家に奉公に出され、結局才覚のある弟の方が裕福な暮らしを送っていた。兄の目に、弟はどう映ったのか、また朝太郎を兄の資格が無いと嫌っていた弟の目には。

凍る月
 下酒問屋河内屋の当主・松太郎は、丁稚から勤め上げた叩き上げ。先日、先代の一人娘の婿になったばかり。松太郎が持ちかけた相談とは、新巻鮭が無くなったと言うもの。猫の仕業ではないか、そんなにきりきり考えなくていいという茂七の言葉は彼に届かず、若い女中のおさとがいなくなったこともあって、とうとう巷で話題の「日道さま」に話を持ちかける。「日道さま」――まだ小さな少年は、霊視ができるのだとか。日道は、おさとはどこかの川に身を投げて死んでいる、という。

遺恨の桜
 日道さまが襲われた。茂七が瓦版屋に事件の吹聴を頼むと、早速情報が集まった。味噌問屋伊勢屋で働くお夏は、同じく住み込みで働く清一と所帯を持つ約束をした。ところが清一が行方不明になってしまったので、日道に霊視を頼んだと言う。日道が視たしだれ桜のある屋敷を見つけ出したお夏は、乗り込んで日道の名前を出したとか。日道にこれ以上霊視されたくない何かが、その屋敷にはあるのだろうか。

糸吉の恋
 茂七の手下・糸吉が恋をした。焼け跡の空き地に植えられた菜の花をぼんやりと見ている娘、彼女はこの地に赤ん坊が殺されて埋められていると言う。捜査を開始した糸吉に、茂七は事を掘り起こさない方がいい、と忠告する。

寿の毒
 熊井町の料理屋『堀仙』で蝋問屋辻屋の御隠居の還暦のお祝いがあり、招待され御馳走を食べた女が死亡した。女・おきちは辻屋の若主人の元嫁で、かなりの遺恨があった様子。食あたりにしてはその他のお客に、あまり異常が見られない。おきちは、誰かに毒を盛られたのではないか、それにしても何に毒が入っていたのか、誰が入れたのか。

鬼は外
 小間物屋松井屋の主人・喜八郎が亡くなった。妹のお金は、もう一人の兄・寿八郎を呼び戻そう、と考える。三十年前養子に出された双子の兄も、実家の危機に喜んで帰って来るに違いない。寿八郎にももう今の生活がある、ということを考えもしないお金の思い込みは、過去の事件と、それに続く今の捻じれまで明るみに出すことになる。…


 いやぁ、自分が食いしん坊だということが良く分かりました。
 『初ものがたり』自体は以前読んだことがあったのですが、事件はほとんど覚えていなくてですね、出てきた美味しそうな食べ物ばっかり覚えてました(苦笑;)。稲荷寿司、蕪汁、柿羊羹に桜餅(笑)。
 それでも稲荷寿司屋の親父が元お侍らしい謎の人物、ってのは流石に覚えていたので、今回<完本>なんだからそのあたりが明らかになるのかな、と思ってたら、………なってないじゃん。
 いやいや、親父は誰を探してるんだよ、本当に火付盗賊改方(…おお、鬼平…!)なのかよ。
 いずれ他の話で書く、とは作者もあとがきで書いてますが、いつになるのやら、気になるなぁ。
 いや、お話は本当に一話一話面白いんですけどね、やるせなくて切なくて、でもほんのり明るくて。だって宮部さんですもの、外れる訳がありませんもの。