読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

妖女サイベルの呼び声 パトリシア・A・マキリップ著/佐藤高子訳 ハヤカワ文庫FT 1979年

 米国での初出は1974年。
 ネタばれあります、すみません;

 魔術師サイベルは、母親であるヒルトの領主ホルストの長女・レアランから象牙色の髪と華奢な骨格を、父親から漆黒の瞳と幻獣達をあやつる術を受け継いだ。生まれてすぐに母親を、16歳で父親を亡くし、たった一人でエルド山に住む彼女に付き従うのは、大きな翼と黄金の眼を持つティルリスの黒鳥、赤い眼と白い牙を持つ猪・サイリン、緑の翼を持つ竜・ギルド、黄金の毛並みを持つライオン・ギュールス、緑の眼を持つ巨大な黒猫・モライア、青い眼の隼・ター。だが、祖父や父から受け継いだ幻獣たちより彼女が欲するのは、白い翼の妖鳥・ライラレン。サイベルは夜毎、心(マインド)の静寂からライラレンを呼ぶ。
 ある日、サールのコーレンと名乗る騎士が彼女の館にやって来る。コーレンは赤児を抱いており、この児はレアランの妹・リアンナが、夫であるエルドウォルド王・ドリードを裏切って、コーレンの兄・ノレルと通じて設けた子だと言う。サールの一族はドリードと戦って負け戦の状態にある、このままではいずれこの児の命も狙われる。この児を無事に育てるためにも、サイベルが預かってくれないか。
 あまりにも勝手な言い分に申し出を断るサイベル。だがコーレンの誠実な人柄に触れ、その児・タムローンを引き取ることにする。山の麓に住む老婆・メルガの助けを借りてタムローンを愛し育てる。
 十二年後、再びコーレンが館を訪れる。ノレルとリアンナは惹かれあっていたが実際は何もなかった、タムローンはドリードの子で、権力争いに利用するためまた引き取りに来た。コーレンから自分の父親の名を聞いたタムローンは、会ってみたいとサイベルに言う。仕方なくドリードを呼ぶサイベル。タムローンはドリードについて行き、サイベルは孤独の中、妖怪ロマルブを呼び込む。黒い靄、炎の白さに輝く眼、自分が最も恐れているものを見せるロマルブ。コーレンもまた、サイベルに呼ばれたとやって来る。
 ドリードもサイベルに惹かれていた。だが前の妻に裏切られていた孤独な王は、サイベルと向き合うことができない。コーレンがサイベルに近付いていたことも不安に拍車をかけ、強大な力を持つ魔術師・ミスランを雇い、彼女の意志を奪い従順な女に仕立て上げるよう依頼する。ドリードと結婚しても構わないから自分の意志を殺さないでくれ、と懇願するサイベル。だがミスランはそれを聞き入れず、彼もまた彼女を自分のものにしようとする。彼が、サイベルに与えられるあらゆる知識、この世の宝物を並べたてながら彼女を奪おうとした瞬間、サイベルは隙をついてロマルブを呼ぶ。ミスランは自分の心の裏側を見て、恐怖のために死ぬ。
 ドリードに復讐を誓うサイベル。コーレンと結婚し、サールの一族にその妖力を貸す。だがコーレンにはその事実は話せない、自分の醜い面は見せられない。しかし戦の準備も整ったある日、とうとうコーレンはサイベルの意図に気付いてしまう。愛し合いながらも諍う二人。その夜、サイベルの元をロマルブが訪れる。サイベルは自分の心の内を見せられ、そのまま姿を消す。…

 荻原規子さんがエッセイ『ファンタジーのDNA』の中で紹介していた一冊。漸く読みました。
 …面白かった!
 いわゆる幻想小説は自分には合わないかも、と思ってたのですが本当に面白ければ大丈夫なんですね。
 確かにはじめのうちは見慣れないカタカナの羅列に「どうしよう」と思ったけど(何しろ地名だか人名だか訳が分からない)、慣れて来ると一気でした。
 サイベルの意志を奪い自分に都合のいい女にしようするドリードには、素直に「…なんて酷いことを…」と眉を顰めました。それと同時に、もしかしてこの頃ってフェミニズムが台頭してきた頃なのかしら、と思ったり。「真実の名を呼ぶ」とか、いかにも『ゲド戦記』だし。
 でもサイベルと幻獣達の関係に、私が連想したのは『十二国記』だったんですが。「ああ、麒麟と使令の関係だわ」…そうするとサイベル、最後には幻獣達に喰われちまうのか?(苦笑;)。
 ラスト近辺、サイベルに、ここまで協力しておいて放り出しちまうのはどうよ、と思ったのですが、上手く行きましたね。幻獣達、本当にいい子だなぁ。
 何となく、西烔子さんの絵を連想しました。…どうしてなんだろう;