読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

短劇 坂木司著 光文社 2008年

 坂木司掌編集。…かな、多分;
 ネタばれあります、すみません;

 カフェラテのない日
朝の出だしから調子の悪かった一日、でも帰りの満員電車の中で窓ガラスに映った男性は何だか素敵な感じ。でもいざ駅で降りたら、その人はいなくなっていた。あの人は幻、幽霊だったんだろうか。

 目撃者
とある会社の給湯室、ステンレスの流し台が見た一人の女性の裏表。

 雨やどり
遠慮なく何でも言い合える女友達、僕は彼女に恋心を抱いている。だけど彼女が選んだのは僕ではなく、僕の身近な人物だった。言えない想いを、僕は花束の中の小さなパイナップルに滲ませる。

 幸福な密室
止まったエレベーターの中、閉じ込められた何人もの人々。明りがついて、そこにいたのは…。

 MM
掲示板に、ウィットに富んだ言葉を書き入れている「MM」。その人の文章をこっそり楽しんでいたら、この日の内容は何だか自分のことを書かれているようで、気味悪くなってきた。

 迷子
予定調和な人生を歩んできた「私」。あまりにも堅実な人生の為に、娘には嫌われてしまった。初孫が産まれたことを契機に、私は人生初、迷子になろうと決意する。

 ケーキ登場
とあるレストランにて。バースデーケーキが登場した瞬間、交差する各人の思い。

 ほどけないにもほどがある
ステカンを電柱に括りつけるバイトに就いて以来、気になる同業者がいる。凝った結び方、でもどれも一様にほどき易い。やがて、その本人が彼の前に現れる。彼も同じように気になっていたのだとか。

 最後
集まった四人の男。最後のドライブ、最後の晩餐、最後の一服、そして最後の女を楽しむ。
 
 しつこい油
いままでの人生で、こつこつと復讐を繰り返して来た「私」。恋人をお嬢様育ちのひ弱な同僚に盗られ、彼女に一服盛ることを思いつく。食中毒を起こすよう、古くなった油をそっとふりかける。

 最後の別れ
どの大陸からも遠く離れた島に、二人の兵士が生き残った。どこかに誰かが残っているのか、本当にこの世には二人だけなのか。

 恐いのは
年寄りが二人、愚痴を言い合う。娘のこと、都市開発計画のこと、孫娘のこと、その始末の着け方まで。

 変わった趣味
ロボットが人の生活に普通に馴染んできた世界で。お手伝いロボット相手にオタク趣味を満喫する友人二人に対して、のこり一人は…。

 穴を掘る
男は穴を掘っていた。出て来た奇麗な石にも、遺跡にも眼もくれず、穴を掘った。俺を追い出そうとする人間に耳も貸さず、弁護しようとする男も相手にせず、ただひたすらに穴を掘った。

 最先端
最先端のネイルを紹介され、つい施術して貰った「私」。奇麗に見えたそれは、ある特殊技術を利用したもので…。

 肉を拾う
工場での男の仕事は、肉を拾うこと。落とし係が切り離したそれを拾う。彼が落とし係にしたアドバイスとは。

 ゴミ掃除
ネットで集まった不穏な男たち。それぞれの趣味で拉致した女を楽しみたいと言う。俺はそれぞれの趣味を、その男たちに返してやることをストレスの捌け口にしている。

 物件案内
離婚して家がなくなった。さびれた不動産屋のおばさんは彼女に、強引に物件を紹介する。自分にはその人が求めている不動産が見えるのだとか。

 壁
留守の友人宅に、インコの世話をしに行った「僕」。壁一面に貼ってあるお洒落なポスターやポストカードに意味があると判ったのは、偶然からだった。

 試写会
映画の試写会に当たったその日は、本当についていなかった。妻に逃げられ、人にぶつかり、入ったコーヒーショップの隣の席は赤ん坊連れで、静かに煙草も吸えない。試写会会場では無礼な中年女性に会うし、映画もその後のアンケートも妙なものだった。

 ビル業務
トイレを求めて入ったビルで、偶然見つけた入口。ほとんど誰も気づかないようなこの穴は、どこに繋がっているのか。

 並列歩行
停電のため、最寄りの駅まで電車が動かない。自宅まで歩いて帰ることにした。ふと見ると道の反対側を、同じように歩いている男がいる。

 カミサマ
仲の良かった町工場の社長が死んだ。発作的に電車に乗り、名の知れた樹海の遊歩道を歩く。やがて道を逸れ森に迷った「俺」の前に、妙な男が現れる。

 秘祭
とある地方のとある村に、他言無用の秘祭があるという。最年長の人物が順当に「長老」を名乗るその村で、「私」が見た祭りとは。

 眠り姫
姫の眠りを見たものは、この世の秘密を知ると言う。遠い国の兵士たちと共に、私は眠り姫のいる城に向かった。懐には麓の村人から貰ったお守りを入れて。

 いて
夕暮れの帰り道、偶然出会った「それ」。くらげかゼリーのような手触り、でも暗くて姿はよく見えない。もう一度会いたくてわざと帰り道を遅らせたある日、「私」は変質者に後をつけられる。…


 ショートショート、まではいかない長さの掌編集。坂木さん、こんなのも書けるんだなぁ。以前、森絵都さんも同じような作品集出してましたよね。
 オチに察しがつくものもあり、「おお、これは意外」と驚くものもあり、すかっとするものもあり。こういう小作品で個性を出すのは大変だろうな。何故か「星新一は偉大だったんだな」とも思ってしまいました。星新一ショートショートって、星新一の作品だ、ってすぐ判りますもんね。