読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ヴェネツィア便り 北村薫著 新潮社 2017年

 短編集。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 ――あなたの「ヴェネツィア便り」は時を越えて、わたしに届きました。この手紙も、若いあなたに届くと信じます――なぜ手紙は書かれたのか、それはどんな意味を持つのか……変わること、変わらないこと、得体の知れないものへの怖れ。
 時の向こうの暗闇を透かす光が重なり合って色を深め、プリズムの燦めきを放つ《時と人》の15篇。
                                         (出版社HPより)

 麝香連理草
スイートピーから蝶を連想する。

 誕生日 アニヴェルセール
侯爵家に双子の弟として生まれた自分は身体が弱い。反対に、兄は頑強で軍人として活躍している。寿家と輝美、何故この名前が自分たちにつけられたのか。

 くしゅん
お互いに遠慮や心遣いがなくなった夫婦。妻は猫に、「かわいいくしゃみの仕方」をレクチャーされる。

 白い本
私が誘っても興味を示さなかった催しに、先輩は友香ちゃんと行くという。読まれないまま古本屋に売られた白い歌集に、「読んでさえもらえれば」と私は思う。

 大ぼけ 小ぼけ
めったにない珍しい名前の「私」。四十を過ぎて今の旦那に巡り合い、国内旅行と他愛ない会話を楽しんでいる。

 道
定年前の夫とその妻の日常。中学の同窓会に出席したり、遠くに住む娘を思ったり、トイレ詰まりを直したり、教師をしている妻の送り迎えを決意したり。

 指
不治の眼病の薬となる海辺の茄子を求めて、上総の海へ行く。

 開く
神社を訪れて、そこに埋まっていたとっくりの口の栓が開くのを見た。以来、体調が悪い。ある日先輩に、悪いものが憑いている、塩を持ち歩くようにとアドバイスされた。

 岡本さん
大切な書類をシュレッダーにかけてしまった私を、フォローしてくれたのは普段目立たない岡本さんだった。どうやら彼には不思議な力があるらしい。なんでもないことでまで彼を頼ろうとしてしまった自分に愕然とするような。

 ほたるぶくろ
小さい頃、亡くなった人が身近にいると、小さな鐘の音を聞いた。ほたるぶくろの花がベルになって鳴っているような。

 機知の戦い
アメリ現代文学を専攻する若き教授 寺岡君。『ダール劇場』のDVDが手に入ったのを切っ掛けに、我が家に招待した。どうやら妻と意気投合した様子、あまり面白くはない。

 黒い手帳
同窓会で木島教諭から、自費出版の句集を贈られた。ろくろく中身を見ないまま置いていたら、ある日木島が家を訪ねて来る。古本屋にあった自著を見つけ、犯人を追ってきたらしい。

 白い蛇、赤い鳥
妻が家の近くで白い蛇を見た、という。連想したのは『赤い鳥』、丁度青空市で古本の全集が売られていた。

 高み
エノケンのDVDを見て、その元ネタに思いを馳せる。主演を務めた女優のことや、彼女を同じ苗字だった幼馴染のことを。

 ヴェネツィア便り
20代で訪れたヴェネツィア、そこから出した手紙は30年後の自分に宛てたものだった。50代になった今、私は再びヴェネツィアを訪ね、返信を書く。30年前の私に。…


 短編、というよりも掌編も多く含んだ作品集。ショートショートではないんですよね、日常風景を描いたというか、ショートショートはオチがある感じだもんなぁ。
 連想から連想に繋がって、流れる景色を思い付くまま描写したような作品も多々あり。珍しくホラーもありましたね、『黒い手帳』なんかは久々、北村流「イヤな人」的な感じでした(苦笑;)。
 何かでも、すぐ忘れそうなんだよなぁ、こういう短い話は特に;;