読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

むかしのはなし 三浦しをん著 幻冬舎 2005年

 昔話をモチーフにした連作短編集。

 『ラブレス』‥モチーフは『かぐや姫』。
 祖父も父も27歳で死んだ「俺」は先月、27歳の誕生日を迎えた。ホストクラブで働いている。俺を贔屓にしている客は5人、そろって俺に誕生日プレゼントをくれた。
 60代の主婦・石田は仏像を。
 40代クラブのママ・倉持はベンツのガルウィングを。
 サラリーマンの妻・阿部はアルマーニのスーツを。
 女子大生の伴は「パパにばれちゃったからもう来れない」と300万円を。
 30代の神保は「あなたの子供を」。
 それがケチのつき始めだった。
 阿部の夫は役所の不正がらみで焼身自殺、ベンツを売り飛ばすついでに仏像も売ったらそれが盗品だったようで、警察が乗り込んでくる。神保は実は城之崎組の幹部・田山の女で、田山は「メンツを潰された」と俺を東京湾に沈める気らしい。城之崎組の男達に追われて逃げ込んだ海辺の倉庫から、俺は最後のメールを送る。

 『ロケットの思い出』‥モチーフは『花咲か爺』。
 幼い頃、ロケットと名付けた犬を可愛がっていた「俺」。高校を出てからは空き巣で生計を立てていた。ある日入ったアパートの住人は、高校の時の同級生・犬山。犬山は、俺の犯行を黙っている代わりに、別れた女の家への侵入を手伝え、と言い出す。

 『ディスタンス』‥モチーフは『天女の羽衣』。
 パパの弟・鉄八が家にやって来た。大学院へうちの家から通うという。共働きの両親に代わって、「あたし」の面倒を見てくれた鉄八。あたしは鉄八に恋をする。

 『入江は緑』‥モチーフは『浦島太郎』。
 時が止まったような入江で、漁をして生活する「ぼく」。都会へ行った幼なじみ・修ちゃんがある日、女の人を連れて帰ってきた。修ちゃんの彼女・カメちゃんはたんぱく質の研究をしていて、結婚して修ちゃんを、木星に連れて行くと言う。三人で漁に出た日、重大発表が行われた。

 『たどりつくまで』‥モチーフは『鉢かつぎ』。(…『鉢かづき』じゃないかな)
 政府から、「三ヶ月後、地球に隕石が降ってくる」と発表があった。それでも変わらずタクシーの運転を続けている「私」の車に、夜中、一人の女が乗ってくる。エステに通っていた、整形もしている、と話す彼女に、私は密かに共感する。

 『花』‥モチーフは『猿婿入り』。
 まるで気に入らない相手に、ほとんど詐欺を働かれて結婚してしまった「私」。人工の花を作る彼の転勤先は、本当に遠いところだった。

 『懐かしき川べりの町の物語せよ』‥モチーフは『桃太郎』。
 神保百助ーー通称モモちゃんはみんなに恐れられていた。ヤクザの子供で喧嘩も滅法強くて片っ端から女と寝ている、と言う噂の絶えないモモちゃんは、フルーツサンド片手に感情のまま行動する。高校二年の夏休み、ひょんなことからモモちゃんと知り合った「僕」は、モモちゃんの彼女・宇田鳥子と、友人らしい有馬真白と、夏休み中モモちゃんの部屋でフルーツサンドを食べてだらだら過ごす。やがて鳥子は、父親・田山の愛人の女から、母の形見だったダイヤモンドを盗み出してくれ、と言い始めた。難なく計画を立て、実行してみせるモモちゃん。新学期になって、白いベンツに乗った男が、僕に話し掛けてきた。男・田山は神保百助のやったことを承知しており、僕に「百助に渡すように」と木星行きのロケットのチケットを渡す。…

 昔話を下敷きにした未来の話。
 始めの数編は繋がってるとは思わなかったのですが、『たどりつくまで』で「なるほど!」。そうすると、『たどりつくまで』で出てきた女の人が小さい頃捨てたと言ってた子犬が『ロケット~』になるんだな、とか『ディスタンス』の母親が男は早死にする家系、ってのが最初の話と関わってるんだな、とか思えるのが楽しい。
 何か、少し前の少女漫画を思い出しました。特に『入江は緑』なんて、読み切り漫画としてありそう。
 …でも軽く不快感はあるんだよなぁ。『ディスタンス』なんて、ちょっと眉を顰めてしまった。哀愁にはならないんだよなぁ。何でこの昔話から??と疑問に思う話もありましたし。やっぱり三浦さんの話は私には粘度と言うか湿度と言うかが高い気がする;;