読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

塩の街 有川浩著 メディアワークス 2007年

 初出は2004年。電撃文庫で出されたデビュー作を加筆修正したもの。短編も収録。
 ネタばれあります、すみません;;

 『塩の街』:
 宇宙から塩の塊が飛来した。以来、人間が塩の塊と化す「塩害」が世界中にはびこっている。日本では推定八百万の人口が失われた。
 18歳の小笠原真奈はその日、熱を出して寝込んでいた。共働きの両親はとうとう帰って来なかった。家に貯えた食糧や配給で何とか過ごして来たものの、人心荒んだ人々に襲われ、あわやという所を元自衛官員・秋庭高範に助けられる。
 秋庭と共に暮らす真奈。猫を拾い、犬を拾い、重いリュックを背負いつつ海を目指す青年・遼一を拾う。リュックの中には塩と化した幼馴染み・海月が納められ、遼一もまた塩害に侵されていた。
 遼一を鎌倉に送って行った帰り、秋庭と真奈の乗った車は一人の若い男に襲われる。真奈を人質に取った男・トモヤは脱走囚。秋庭の家へ乗り込み、真奈を弄る。怒った秋庭が捩じ上げたトモヤの腕は、ぽきんと折れた。トモヤは塩害の末期にあった。トモヤの最期の時を見透かしたかのように自衛官が現れ、トモヤの死体を引き取って行く。
 トモヤの逃亡によって秋庭の居場所が知れた。塩害のどさくさで立川駐屯地司令にまで成り上がった秋庭の同級生・入江がマンションへ訪ねて来る。曰く、「大規模テロなんてしてみたくない?」。塩害の原因と思われる塩の隕石の撃破に、半ば脅すように秋庭を誘う。
 住居を駐屯地に移した二人。一人でいることが多くなった真奈は、入江の大量の人体実験の痕跡を見つけてしまう。入江は真奈を楯に取り秋庭に結晶襲撃を承諾させ、真奈は、それで秋庭が生きて帰って来る気になるのなら、と進んで塩の結晶で出来た部屋に入る。

 『塩の街、その後』
 結晶襲撃、その後。塩害の様子を見てみよう、とルポライター志願の中学生・高橋ノブオはヒッチハイクの旅に出る。乗せてくれたのは秋庭と言う男と、真奈と言う名の少女。真奈が外を見ないよう、異様なほど気遣う秋庭は、実は塩の結晶を攻撃したパイロットだった。…『―debriefing―旅のはじまり』
 
 自衛隊駐屯地で出会った野坂正・由美夫婦の、出会いから結婚に至るまで。…『―briefing―世界が変わる前と後』
    正さん、いいなぁ。怠惰で臆病な由美の理由、って何かものすごく解る(苦笑;)。

 実験材料として父親を入江に殺された少女が、使用人に命じて入江を拉致させる。塩害に侵されている自分を助けろ、と脅すがこの男にはまるで効かない。この男に弱味はないのか。少女は反対に自分の弱さを見透かされて行く。…『―debriefing―浅き夢みし』
    う~ん、入江に弱味ってあってほしくなかったなぁ。

 塩害から二年。国内結晶処理完了の声明と共に、秋庭には異動命令が下る。伊丹から百里へのドライブの合間、秋庭は郷里に立ち寄り、真奈の取り持ちもあって、長い間不仲だった父親と和解する。…『―debriefing―旅の終わり』
    「俺の好きな女で、親父と仲直りできたら俺と一緒になるって紹介したい女だ」
     …天性の女ったらしだね、こりゃ(笑)。

 面白かったです。特にあとがきが(←こらこら・笑)。電撃文庫版の方は読んでないのですが、この人、理性的にお話書く人なんだなぁ。ライトノベルで出すに当たっての書き直し、担当さんとのやり取りに、「○○だからこうした」っていちいち理由がある所がなかなか(笑)。キャラクター達の年齢に関しては、確かに有川さんの言うとおりだと思いました。これは中坊の恋では説得力ない。でも担当さんの言うことも少し分かってしまった(笑)。確かに、18歳と17歳は違うなぁ。作者もそれが分かってるから18歳にしたかったんじゃないのかしらん。しかしこの理性と言うかこだわりと言うか、設定考える段階にはあまり生きないのかな、とかなり意地悪いことも考えてみる(←こらこら・笑)。塩害の処理についてあまりにもあまりにも簡単すぎる気がしましたが、まぁいいか。荒唐無稽を受け入れてキャラ読みするのがこの人の作品を読む姿勢として正解な気がするし(笑)。
 真奈ちゃんの造形、「自分が非力であることを分かった上で物事に関わる」ってのは何となくひかわきょうこさんの『彼方から』を思い出しました。でも何だか受ける印象が違いましたね。この子にはあまり好感は持たなかったんですが、それでもやっぱり、クライマックス近辺ではうるうる来てしまいました。
 しかしこの人、私が思うかっこいい終わり方、ってのよりもう一歩書くなぁ。今回も、二人がノブオの本を見つけて、その書き出しの「世界が終わる瞬間まで、人々は恋をしていた。」のフレーズで終わった方がいい気がするんだけど。これも個性なんでしょうか。それともライトノベルは一歩くどくなっちゃうのかな。…と『彩雲国~』とか連想してみたりする。あれも角川でしたね~(笑)。