読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

きつねのはなし 森見登美彦著 新潮社 2006年

 少しずつ挿話の重なる連作短編四本収録。
 
 『きつねのはなし』:京都・一乗寺にある古道具屋・芳蓮堂。「私」武藤はそこで店番をしたり、店のバンを運転して荷物を運んだりのアルバイトをしている。店主はナツメさんと言う30歳位の人。涼しげで優しい目をした、背の高い綺麗な女性。ある日、私は鷺森神社近くの天城さんの屋敷に品物を届けるよう頼まれる。着流しで幽鬼のような風貌の天城さんが、私には少し怖い。常連の須永さんに届ける皿を割ってしまった私は、代わりになる品を天城さんから貰って来るようナツメさんに言いつかる。「どんな些細なものでも決して渡す約束をしないで下さい」――しかし私は、電気ヒーターを渡してしまう。ナツメの母の死、須永さんの自殺。天城の要求は狐の面、恋人奈緒子の写真とエスカレートして行く。そしてとうとう奈緒子が姿を消した。私はナツメの助言を得て、吉田神社の節分祭へもぐりこむ。奈緒子を連れ戻すために。…

 『果実の中の龍』:四畳半の下宿二部屋を借りて本に囲まれ暮らす先輩。大学二回生の時、シルクロードを放浪したと言う。妄想で架空の自伝、年代記を作った祖父を持ち、そのせいで父は書物が嫌いになり、兄は家を出て大道芸人になったと語る。剣道場に通う女の子から聞いた蛇のように胴の長いケモノの話、芳蓮堂主人須永さんの連れられて行ったナツメさんの家で見たからくり幻燈の話…。先輩の話にとにかく惹かれる「私」。柿から出てくる龍の根付を恋人の結城瑞穂に贈り、不機嫌にさせてしまう先輩の下宿に「私」は通う。…

 『魔』:高校一年の西田修二の家庭教師をする「私」。一歳上の兄・直也や寺の息子・秋月、幼馴染みの女の子夏尾美佳とも知り合う。「私」が狐に似ているが胴が妙に長いケモノを見た後、夜道で通り魔が出没する。あらぬ疑いを掛けられる秋月。夏尾は「私」に射るような視線を投げかける。

 『水神』:五年前死んだ祖父の通夜での出来事。祖父が生前預けていた品を返す、と芳蓮堂から連絡が入る。二人の伯父と父と、酒を呑みながら芳蓮堂を待つ「私」。話は自然、自分たちの幼い頃や、祖父・曽祖父、曽々祖父の思い出話になる。琵琶湖疏水建設に携わり、壮大な宴会を催して死んだ曽々祖父、事業に失敗して骨董道楽に耽り、軟禁状態で死んだ曽祖父。祖父の後添え花江も奇妙な死を迎え、祖父自身も誰を招いたか分からない宴会を開いた後、憑かれた様に水を飲んで死んだと言う。やがて芳蓮堂の女主人が現れる。

 …こいつ、化けやがった…! ってのが第一印象。
 森見さんの作品と言えば、頭でっかちの大学生の男の子が主人公。後から考えると恥ずかしくなる、青春のイタイ光と陰(笑)を書く作家さんだと思ってたのに。
 …こわいやんかぁぁっっ;;
 ナツメさんに運ばれる布袋様の幸せそうな様子とか、怠惰なのか真面目なのか分からない大学生の生態とか、相変わらずな所も多々残ってるんですが、でも、こう言う作品書くとは思ってなかった。
 『魔』は落ちの察しがつきましたが、『果実の中の龍』は哀切漂う感じ。でも『水神』は誰のエピソードか途中でわからなくなってしまいました、もうちょっと整理して欲しかった;
 それにしても、この作家さんの認識改めさせられました。…うぬぅ、侮り難し;;
 うう、怖いよう;;