読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

海神(わだつみ)の島 池上永一著 中央公論社 2020年

 ネタバレになってるかも、すみません;

 沖縄で祖母の愛情を受けて育った花城汀、泉、澪の三姉妹は、いずれ劣らぬ個性派揃い。
 汀は琉舞の名手から祇園の舞妓へ、さらに銀座のクラブのママにまでのし上がった。次のターゲットは銀座表通りのポルシェビル、購入には5億かかる。
 泉は新進気鋭の海洋考古学者。日本の古い学究体制に見切りをつけ、海外をメインに論文を発表し、スポンサーを探す。トカラ列島の海底を探るための深海潜水艇トライトン3300、これの購入金額は約5億円。
 澪は地方アイドル、グラビアアイドルから2度のスキャンダルを経て地下アイドルへ。再々起をかけていた主演映画は、不況の為スポンサー企業が撤退してしまった。製作費5億円あれば、製作が可能になる。
 そんな時、オバァが倒れたとの連絡が入った。瀕死のオバァの遺言状が明らかにされ、そこには遺産の米軍基地内の土地、そこにある海神の墓を三姉妹の誰かに守ってほしいとの記述が。一旦は拒否した三人だったが、地代収入を聞いて目の色が変わる。その額、年間5億2500万円。
 相続条件はオバァの父親が発見した海神島の秘宝を探し出すこと。類まれな記憶力と人脈で迫る汀、知識と資料から割り出そうとする泉。郷土史家であり考古学者だった曽祖父が石垣から疎開する際、日本軍に渡した袖の下ではないか、宗像神社の銅鏡ではないか、河村コレクションのゴホウラガイの腕輪ではないか。だがあと一歩の所で何故か澪に先を越され、しかしどれも曽祖父の秘宝ではない。澪の協力者を探るため汀と泉は手を組み、デマの情報を流して、澪もろとも台湾に封じ込める。
 その間にも訪れる基地の返還問題、部外者が口を出すなと言わんばかりに汀と泉は活動家連中を陥れるが、米軍の態度のキレの悪さも気にかかる。
 「海神島」とはどこなのか。たった一枚残る写真と、汀は人脈から、泉は資料の読み込みから、澪は在台湾県人会の重鎮から、今のその名を知る。――尖閣諸島
 石垣島から台湾へ疎開する筈が、尖閣列島に遭難する羽目になった曽祖父。汀は中国高官の伝手を辿って、泉は米軍への労働との交換条件で、澪が自力でカヤックに乗って、魚釣島に辿り着いた。果たしてこの島にあるという秘宝は何なのか、三姉妹の誰が手に入れるのか。…

 …池永さん、きっと覚悟の一冊なんだろうなぁ。
 沖縄出身の作家として、おそらく色々な所から意見を求められて、今の池永さんの見解をエンタテインメントで昇華した…と、見られることを覚悟した上での一冊。基地問題や平和活動の実際を、地元民の立場から切り込む。領土問題をどちらの方も自分の都合のいいことしか言ってないと論じ、泉が解決策を述べる。…いや、無理なんだろうけどね、胸が痛い。ついでみたいな感じで、戦時中の日本軍の非道を暴いたり(まだ色々やってんだろうなぁ;)。
 エンタテインメントとしての展開、結末は本当、お見事。池永さんの作品は個人的なイメージとして、全力疾走、後半息切れな印象があったのですが、今回は全力で長距離走り切った感じです。伏線もしっかり回収、それぞれが前を向く気持ちのいい終わり方。ROV(遠隔操作型無人潜水機)が再登場した時には、なるほど!!と思ったもんなぁ。
 面白かったです。