読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

青瓜不動 三島屋変調百物語九之続 宮部みゆき著 KADOKAWA 2023年

 シリーズ9冊目。

 青瓜不動
 おちかの出産を控え、百物語を中断している三島屋を、行然坊が訪ねて来た。彼はおちかの為にもと、一人の女を紹介する。東ケ谷高月村 洞泉庵から来たいね、大きな仏像――うりんぼ様を背負っていた。いねは自分も世話になっている洞泉庵の成り立ちについて語る。
 男に遊ばれて子を流したお奈津。彼女を親身に看護してくれた叔母は、石女として婚家から迫害され、姑に殺されかけた過去を持っていた。実家に戻っても居場所がなく、死んでからもろくろく弔って貰えない叔母を思い、お奈津は家を出て、廃墟になっていた洞泉庵で一人暮らしを始める。あちこちを手伝って日銭を稼ぎ、痩せた土地に青瓜を植えて農地改良に励むうち、お奈津の周りには居場所のない女たちが集まって来るようになる。

 だんだん人形
 味噌屋丸升屋の三男 文三郎が、祖父から聞いた初代について語る。
 初代がまだ味噌問屋の見習いだった頃、味噌を仕入れに行っていた三倉村を災厄が襲う。代官が代わり、特産品で潤う山村が搾取されるようになったのだ。初代と共に村を回っていた兄貴分は訳を質して殺され、村の有力者も水牢に閉じ込められる事態。その惨状をお上に訴えるべく、初代は道に詳しい村の子供と共に、命からがら村から逃げた。全てが解決するにはさらに時間が必要で、でもそのお礼にと、村の娘は特産の土人形を初代に贈る。その武者人形は、丸升屋の三代目、四代目まで災難から救ったらしい。

 自在の筆
 骨董屋で出会った老絵師は、「あの筆」に執心しているようだった。以来、筆の由来が知りたくてたまらない富次郎。やがて件の老絵師は、骨董屋に預けてあった筆をへし折って飲み込む、という壮絶な最期を遂げ、骨董屋は富次郎にその筆について語る。筆を用いる全ての技を持つ人に才を与え、その代わりに持ち主の周囲の人々を贄に求める、自在の筆の顛末を。富次郎は自分の絵への未練を思い知る。

 針雨の里
 右腕のない男 門二郎が、生まれ故郷について語る。
 果物が豊かに実り、玉石が採れる故郷では、珍しくも美しい鳥の羽毛や卵の殻も特産品だった。身寄りのない子を山村で引き取る習慣があり、捨て子だった門二郎もそこで働いていた。但し、大人になるとその村を出て行かねばならない。村に残りたいと願ってもそれは叶わない。「針雨」という現象に気を付けるよう言いつかりながら育つ門二郎。だが、ある日突然、その暮らしに終わりが来る。…

 何だ何だ、富次郎さんもハンサムなんだ、と明かされたシリーズ9冊目。店の前でモデルができる、ってそりゃお兄さんに負けず劣らずの容貌ってことじゃん、ずるいなぁ(笑)。
 おちかさんに娘が生まれ、百物語も気兼ねなく続けられるようになりました。今回は切ないながらも、一応後味の良いお話で占められていたような。江戸時代にも報われない女たちが共同生活を送る場があり、人の世はあまり変わってないのかなぁ。
 美味いもの好きの文三郎さん、また出て来てくれないかな、明るくていいキャラです。
 富次郎さんの、絵への想いが溢れるラスト。彼の絵への執心はどうやら趣味や余技で済むレベルのものではないようです。商品のデザインをするとかでお茶を濁す訳にはいかないのかなぁ。次巻に続きます。