読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

この夏の星を見る 辻村深月著 角川書店 2023年

 ネタばれになってるかも、すみません;

 2020年から2021年にかけての出来事。
 溪本亜紗は茨城県立砂浦第三高校の二年生。顧問の綿引先生のもと、天文部で活動している。コロナ禍で部活動が次々と制限され、楽しみにしていた合宿も中止。生徒だけで代々続けている望遠鏡の作製もできかもしれない。山崎晴菜部長の卒業までに完成させたかったのに。同級生の飯塚凛久も、ナスミス式望遠鏡に意欲を燃やしていたのに。
 安藤真宙(まひろ)は渋谷区立ひばり森中学の一年生。27人しかいない新入生のうち、唯一の男子。姉の友達からもちょっかいを掛けられ、善意ですら鬱陶しい。「長引け、コロナ」とすら念じていたある日、クラスメイトの中井天音に理科部に誘われた。天音は宇宙に興味津々、宇宙線観測をしていた見知らぬ高校生に声をかけるほど。その高校生は、真宙が小学生の頃、同じサッカークラブにいた柳数生先輩だった。
 佐々野円華(まどか)は長崎県五島列島の旅館の娘。高校三年生で、吹奏楽部。旅館に他県からのお客が泊っていることで親友から距離を置かれてしまった。やりきれない思いを抱えている時に、クラスメイトの武藤柊に天文台に誘われる。武藤と、天文台で合流した小山友悟は島外からの留学生。一旦帰郷するともう島には戻って来られない状況で、去年まで同じクラスだった輿凌士は東京に行ったきり、転校を考えざるを得ない状況らしい。この中の誰より星が好きで、そのために島まで来たのに。
 ある日、真宙は砂浦第三高校天文部が活動報告としてネットに上げていた「スターキャッチコンテスト」を見かけた。天音の方が興味を抱き、真宙と鎌田先輩を巻き込んで、砂浦第三高校に問い合わせのメールを送る。「スターキャッチコンテスト」――手作り望遠鏡で星を捉えるスピードを競う、砂浦第三高校天文部のオリジナル競技。話は弾んで広がり、綿引先生が五島列島天文台の知り合いへも参加のお誘いをする。長崎は、亜紗たちが修学旅行で行く筈だった場所だった。
 天文台から円華たちへ、そこから輿へ、凛久たちから柳先輩の所属する御崎台高校物理部へ。望遠鏡の作り方やルールの設定、審判者の選定。リモート会議も駆使して、生徒も先生も繋がって行く。無事開催されたスターキャッチコンテストは、次の企画も生み出した。12月、さらに大きな規模で、凛久の転校に間に合うように、自家製ナスミス望遠鏡のお披露目もできるように。…  (出版社紹介文に付け足しました)

 辻村さん何歳だったっけ、こんなにも瑞々しい、今の時代の中高生を描き切るとは。いや、恩田陸さんが「30代のうちに!」と編集さんに言われて『夜のピクニック』を書いたとか、よしながふみさんが『フラワーオブライフ』を「振り絞って描いた」「今では描けない」と仰ってたのとかを思い出したもので。辻村さんは十代の感性を保ってらっしゃるんだなぁ。
 個人的な事情で途中で読むのが途切れたこともあって、はじめのうち登場人物の把握ができず(凛久と真宙とか、小山と輿とか;)、「あれ、これどっちの誰だっけ??」と戸惑ったりしたんですが、最終的には目頭が熱くなってました。武藤が円華に告白するラストとか、もうにまにましてしまいましたよ(笑)。
 出てくる大人たちもいいんだよな。綿引先生は言うに及ばず、各校の顧問の先生も、子供たちの親も、ちゃんと尊敬できる、目指せる大人で。
 スカイエマさんの挿絵もよかったです。章ごとの中表紙に描かれたイラストは何枚も重なっていて、これは新聞連載だった頃のイラストなのかな。一枚一ずつ見たいですねぇ、そしたら表紙の子たちが誰かはっきりしそうだし。
 コロナが、悪いものばかり運んできた訳ではない。そりゃ、凛久の両親のように、価値観の違いを浮き彫りにしてどうしようもない亀裂も産んだ例もあるけれど(この間友人から、娘さんの受験の間、旦那さんには「帰って来るな」とホテル暮らしをして貰ってた、と聞いたばかりでしたし)、それ故に築けた絆もある。「可哀想」なんて、大人が決めつけちゃいけない、見くびってもいけない。
 希望が持てる作品でした。