読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

凛の弦音 我孫子武丸著 光文社 2018年

 連作短編集。

 第一話 甲矢(はや)と乙矢(おとや)
篠崎凜は、翠星学園高校一年生。中学から弓道を始め、現在弓道弐段。ひたすら弓道に打ち込む少女。
中学までは棚橋先生に教わっていたが、高校入学のタイミングで、棚橋先生は年齢と体調を理由に指導を引退してしまった。代わりの指導者が見つからず、週に一度、先生の自宅に通う日々。だが、それも本多先輩に「先生に対して迷惑だ」と注意されてしまった。これを最後、と先生の自宅に挨拶に行くと、そこには警察が。弓道場で、男が殺されていたらしい。凶器は矢、当初目が悪い先生による事故かと疑われたが、弓道経験者の凛から見るとそれはあり得ない。その場にいた刑事に、凛は矛盾点を指摘する。

 第二話 弓の道、矢の道
棚橋先生宅でのあれこれが校内新聞で取り上げられ、凛は一躍有名人に。本人として迷惑千万な話で、思わず記事を書いた放送新聞部の中田に怒鳴り込みに行く。だが、中田は取材を諦めない。折も折、一年生が弓道部を辞めると言い出した。どうやら三人きりで行った朝練で何かあったらしい。

 第三話 弓と弓巻き
卒業生から借りた竹製の弓がなくなってしまった。中田が撮っていた画像を見たが、誰が盗ったのかまでは分からない。だが、凛は竹弓が保管してあった状態のわずかな違いに気付く。

 第四話 打ち起こし
二年生になって、弓道経験のある新任教師・吉村がコーチに就いた。先生が口にする「勝てる射」「強いチーム」の言葉に違和感を持つ凛。迷いの為か、射も中らなくなってしまう。調子を取り戻す切っ掛けとなったのは、意外にも中田の言葉だった。

 第五話 射詰(いづめ)
試合当日、仲間の調子も、凛の調子もいい。なのにいきなり、試合中に弦が切れてしまった。弦には故意に傷をつけた跡、誰が凛の弦に細工したのか。惑う中、凛たちのチームは決勝まで勝ち進む。

 第六話 射即人生
決勝相手だった強豪校・烏丸女子の羽多野郁美は、女優を目指す美少女。弓もその為の手段としてやっている、と断言して憚らない。そんな郁美が、TV局の企画として凛との勝負を申し込んで来た。郁美の考えには納得いかないながら、対戦はしてみたくて、凛は依頼を受ける。

 第七話 弦音(つるね)
TVの収録・放送後、中田と連絡が取れない。どうやら羽多野郁美と何か企んでいるようだ。問い詰めてみると、郁美は勝負に勝ったにもかかわらず凛の射に敗北感を感じ、凛の師匠に会いたいと言っているらしい。凛は、部の仲間や先生と共に、また棚橋先生の自宅を訪う。…


 「はや」「おとや」がちゃんと「甲矢」「乙矢」に変換されてちょっとびっくり。…そうか、少なくともちゃんと変換候補に入るくらいの言葉なんだ…!
 あとがきに曰く、我孫子さんの奥様が10年以上弓道をされているそうで(確か小野不由美さんのお友達でらっしゃる方ですよね)、影響を受けて我孫子さんもやってらっしゃるとか。
 NHKでも弓道を描いたアニメをやってますよね、ちょっとしたブームになってるのかしら。
 そちらの影響もあって、「早気」だの聞き覚えのある単語も出て来たリ。「その方が中る」とか、だったらそんなに悩まなくても、と思うのは素人の浅はかさなんでしょうね(苦笑;)。
 競技(勝負)と求道としての間で揺れる有様は、『武士道セブンティーン』でも描かれてましたっけ。対自分、という点で弓道の方がよりストイックなのかも。とはいえ、吉村先生のいう「当たったら楽しい」弓道も十分ありですよね、そうでないと衰退するばかりになりそうで。決まり事でがんじがらめにしたばかりに、今ではほとんど着る人がいない着物みたいに。
 推理小説と言うより、青春小説として楽しめた一冊でした。…これ、続編出るのかなぁ。