読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

物語の種 有川ひろ著 幻冬舎 2023年

 読者その他から「物語の種」を募集、そこから発想を広げた短編集。

 第一話 SNSの猫
 この半年ほど、彼女の推しは近所の保護猫カフェの一匹だった。まるでタキシードのような白黒模様、名前はずばり「タキシード仮面さま」。SNSに上がる画像に身悶えする日々、だがある日、彼が迷子になってしまったとの投稿が。矢も楯もたまらず、後輩に背中を押されたこともあって、彼女も猫の捜索にの協力を申し出る。

 第二話 レンゲ赤いか黄色いか、丸は誰ぞや
 妻の祖母が亡くなった。古いアルバムを見ながら、夫に野に咲く花についてレクチャーする。
 夫の父が亡くなった。大河ドラマの思い出話から、夫は妻に歴史知識を披露する。

 第三話 胡瓜と白菜、柚を一添え
 夫の実家、静岡の義父母はどちらも料理好きで色々張り合う。挨拶に行った時に始まって、今では孫に裁定を乞う。

 第四話 我らを救い給いしもの
 彼女とは、本を介して親友になった。好みも似ていて、推しはほぼ一緒、折角楽しかったのに、男子の一言が冷水になった。こちらに寄り添ってくれた友、彼女はいつも自分の味方だった。

 第五話 ぷっくりおてて
 ラブラブの両親の差し金で、夏休みはいつも鳥取の祖父の元に預けられた。「お祖父ちゃんっ子」との称号に不満を抱きつつ、でも彼女との切っ掛けも、田舎で出くわしたヤモリが関係していた。

 第六話 Mr.ブルー
 リモート会議で映った研究所長の後ろには、宝塚のトップスター生駒礼人さまのカレンダーが見事に額装され掛かっていた。同じく宝塚ファンの部下は所長の、仕事にも繋がる熱い志に薫陶と感銘を受ける。

 第七話 百万本の赤い薔薇
 出張帰り、結婚一年目の妻に和紙の文箱を贈った。紙婚式、綿婚式、革婚式…鉄婚式以降は、結婚記念日のごちそうはすき焼きになった。

 第八話 清く正しく美しく
 個人経営のエステサロンに雇われ、薄給で働くスタッフ。常連客もついてくれているが、詐欺まがいのドリンクを売りつけさせられるのは苦痛だ。ストレス発散も兼ねて訪ねた百貨店で、宝塚OGが開発した商品に出会う。

 第九話 ゴールデンパイナップル
 祇園祭の日。浴衣に身を包んだカップル、それを見て自分の娘が選んだちびかわ柄の浴衣を思い出す父親、彼に日報についてこまごま指摘を受けてむしゃくしゃしている準社員女子、キャラ浴衣を切っ掛けにコスプレにハマり、伴侶まで見つけた彼女…。同じ電車に乗り合わせた人々が、梅田駅のジューススタンドに集う。

 第十話 恥ずかしくて見れない
 会社の先輩が宝塚歌劇沼にハマっている。布教話を聞いていたら、実家の伊丹に帰省した折、観劇に誘われてしまった。先輩の視野に入りたいが故に馳せ参じたのに、生のスターさんの行動にトキメキが止まらない。…

 そうそう、これこれ!(笑)。有川さんのこの文章、テンポがよくて言葉のチョイスが抜群で、マシンガンのように撃って来る。楽しくて思わずくすくす笑っちゃう。
 今回一番笑わせて頂いたのは、『Mr.ブルー』はじめとする宝塚関連の短編でした。いや、身近に天海祐希さんに惚れて宝塚沼にハマった友人がいるもので(年齢がばれる)、というか関西に住んでたらクラスや職場にほぼ必ず「生まれる前から宝塚ファン」がいたもので。するする溢れる専門用語が、ほぼ何の注釈もなく理解出来てしまいましたよ(笑)。「好き」を前向きに、日常生活まで照らす明るさにする、いいなぁ。
 でも『我らを~』で部誌を「黒歴史」として焼き捨てた二人には、いやそこまでしなくてもいいじゃん、それはそれで記念に置いとこうよ、と思ってしまいました。きっとそれで勇気づけられる後輩もいただろうに(笑)。
 いやもう、読んで元気になれました。楽しかったです。