読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

小説家と夜の境界 山白朝子著 角川書店 2023年

 作家にまつわる連作短編集。ネタばれあります、すみません;

幸福な作家など存在しない――山白朝子による業界密告小説。
私の職業は小説家である。ベストセラーとは無縁だが、一応、生活はできている。そして出版業界に長年関わっていると、様々な小説家に出会う。そして彼らは、奇人変人であることが多く、またトラブルに巻き込まれる者も多い。そして私は幸福な作家というものにも出会ったことがないーー。
そんな「私」が告発する、世にも不思議な小説家の世界。 (出版社HPより)

 墓場の小説家
 学園ミステリでデビューした作家O氏。彼の瑞々しい作風は、実体験に基づくものだった。高校生を主人公に据えた作品は近所の高校に忍び込んで、傷心小説は自分の家庭を犠牲にして。そして今度は、O氏にホラー小説が依頼された。

 小説家、逃げた
 Yさんは異様に筆が速い作家だった。広く浅く、あらゆるジャンルを網羅し、一定レベルの小説を書く。ネットゲームの傍らで執筆するスタイルは、自身の中に情報をインプットする手段でもあった。やがて、彼の両親は彼を搾取し始める。Yさんは監禁状態で小説を書かされていた。

 キ
 とある本に、動物霊が憑いているらしい。その本の作者はK、十数年前に高校生ながら猟奇的なホラー小説でデビューしている。当時の担当編集者に話を聞くと、彼はその作風を親を始めとする周囲に認めて貰えず、よってたかってジャンル変更の説得をされたらしい。結果、彼は妄想することも禁じられ、小動物を殺すことでしか小説を書けなくなって行った。

 小説の怪人
 ベストセラー作家X先生の新作内容に、私の心はざわついた。それはかつて懇意にしていた新人作家が「いつか書きたい」と言っていた物語に酷似していたから。その作家Aさんを探しているうち、私はX先生の仕事場に招待される。私は身の危険を感じていた。

 脳内アクター
 R先生の作品は、スターシステムを利用している。R先生の頭に住む劇団員が、様々な役を演じているのだ。男三人、女二人の劇団員は、やがてR先生の現実世界を侵し始めた。そして新しい女性キャラクターが現れ、元よりいた男性一人がその存在を脅かされ始める。

 ある編集者の偏執的な恋
 D先生は細身で寡黙な純文学系の作家。人見知りな彼は、馴染みの編集者としか仕事をしたことがなかったが、ある日、別の出版社の編集者から連絡を受ける。異常なまでに付きまとわれるD先生。その女性は、肩書を騙ってD先生に近づいていた。

 精神感応小説家
 N君は、技能実習生としてベトナムから来日した。苛酷な労働環境下での事故で、特殊能力がついてしまう。接触性の精神感応、すなわちテレパシー。ふとしたことから彼と知りあった編集者A氏は、彼を作家Jの元に連れて行く。文豪とまで呼ばれる作家Jは、交通事故にあって全身麻痺の状態、眼球すら動かせないが耳は聞こえているし意識もあった。A氏はN君とJ先生を引き合わせ、事故で途切れた小説の続きを書かせようとする。日本語をまだ理解しきれていないベトナムの青年と、国粋主義者で偏屈な小説家の交流が始まった。…

 山白朝子と乙一名義の差は何なんだろうな、とふと思いました。何も知らずに読んでも私、この作品を女性が書いた作品とは思わなかっただろうなぁ。語り手が男性であることもあるかもしれませんが。
 何にせよ、面白かったです。妙にリアルで、ここまで極端ではなくても、どこかこんなスタイルで小説書いてる作家さんがいるんじゃないかと思ってしまう。デ・ニーロアプローチの悲劇、大量に書いて大量に捨てる方法。スターシステムは私、あだち充さんや畠中恵さんで感じてましたし、工房分業スタイルはさいとう・たかをさんが実際やってらっしゃいましたよね。担当編集ガチャなんて、作者の恨みつらみが吐き出されているようで(苦笑;)。
 結構読後感の悪い作品が続く中、最後に『精神感応小説家』を持ってくるのがズルい。後味すっきりしちゃうじゃないか(笑)。
 表紙に描かれた人達は作中の小説家さん達だと思うのですが、女性と老人以外の登場人物が分からなくて、ちょっと残念でした。