読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ポロック生命体 瀬名秀明著 新潮社 2020年

 連作短編集、になるのかな??
 ネタばれになってるかも、すみません;;

シンギュラリティに備えよ!
VS将棋、VS小説、VS絵画――。
人工知能が、将棋の永世名人を破るときが来た。映画や小説の面白さを分析、数値化し、それに基づいて魅力的な物語が生まれるようになった。ディープラーニングで創作を会得したAIが、「新作」の絵画を発表した。
では、AIが制作した作品は「芸術」と呼べるのか? そして、AIは人類と共存出来るのか? 技術者とAIが次に目指す世界とは? 人工知能は、芸術家の夢を見るか?
最先端の科学知識を背景に、明日にでも訪れるであろうAIと人間の姿を、リアルに描き出す。   (出版社HPより)

 負ける
人工知能が、将棋の永世名人を破るときが来た。アーム担当の久保田は、将棋プログラムAI担当の国吉と組むことを命じられる。命題は潔く投了するAI、参考として手の動きを見せてくれたのは国吉女流名人。AI担当国吉の姉だった。

 144C
新人の編集者のメンターである先達との会話。人工知能が作り上げた物語の今までとこれからについて、そして編集者としての役割。

 きみに読む物語
「本を読んで感動するのはなぜか。その謎を解き明かしたい」
文学部の多岐川の理論は独り歩きした。共感指数――SQと呼ばれる値が既存の作品をレベリングし、これからの出版物の指針となった。大きなうねりは、やがてあっけなく収束する。学生時代、多岐川と共にSFコンベンションに参加し、今 編集者として数々の作家や作品と接する立場にいる小関優子の心に、拭いきれない蟠りと物語の可能性を残して。

 ポロック生命体
亡くなった作家による新作小説が、亡くなった画家による新たな装幀で出版される。画家の遺族は、AIを開発し 今回のプロジェクトを起ち上げた石崎博史を訴える、と言う。だがAIによる新作画は明らかにピークが過ぎた作者のそれより上であり、小説は「傑作」だった。石崎は作家である父が書けなくなったのを見ていて、蘇らせたかったと語る。画家も晩年 プロジェクトに参加し、晩年の作品は既にほぼAIの描いたものだった。…

 全編に哀愁漂う、どちらかというとバッドエンドな印象で読み終えたのですが、粗筋書くため読み直すと、何だか心持が変わってきました。…違うな、これ。希望が差しているな。
 この作品、耳の痛い編集者さん、いるだろうなぁ。アニメ『かくしごと』で出てきたトンデモな担当さん見て、「こんな人いるのか??」と思ってたのですが、あれはまだ笑えるサイズだったなぁ。この作品の編集さん、何気ない一言で作家を書けなくしてるじゃん。で、これ創作だよね、と思い辛いリアリティ。
 同じく、科学者でもズキズキ来た人はいるでしょう、執筆態度云々のボヤキはさもありなん、て感じでしたものね。以前、爆笑問題の太田さんも「もっと伝える努力をしろ」みたいなこと仰ってましたっけ。
 ロボットもAIも、人類も肯定的に捕える。「人類は負けたことがない」って言葉にはそういえば、とはっとしました。
 「ホラーは世界を変えようとする魔力を阻止する物語」「SFは世界がなぜ、どのように変わり、そしてなにが新たに生まれたかを描く」 …なるほど。
 本を面白がれない理由が 自分の限界性だと涙する場面は切なかったです。リテラシーというか、ギャグを解説するのは野暮だ、というような論と同系列の問題ですよね。でももう開き直っちゃいますけどね、裾野を広げるにはハードルは下げないと、と。コミュニケーション能力の高い友達の方がSQ値が高かった、ってのは皮肉だけどある意味納得。思い遣り能力でもある訳ですね。

 それにしても、粗筋の書き難い一冊でした。