読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ダブル・プロット 岡嶋二人著 講談社文庫 2011年

 短編集。
 1989年発刊した文庫本『記憶された殺人』に、未収録作品三本を加え再編成したもの。井上夢人新保博久の解説付。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 記録された殺人
 植松広太郎は語る。勤め先のマーケティング会社に男が乗り込んで来た。とある公園の分析フィルムの破棄が目的だったらしいが、刃物で脅され、もみ合っているうちに男に刺さって死んでしまった。
 男の名は柴山英次、ペンフレンドの瀬川邦子に会いに上京していた。瀬川は柴山の車のトランクで、死体となって見つかった。ルームメイトの増村慶子によると、瀬川は柴山のことを厭がっていたようだ。
 殺害現場は公園の物置小屋らしいと分かった。瀬川らしき女性と柴山が小屋に入る映像が残っている。だが、警察はフィルムのキズの付き方に疑問を抱く。まるで何かを隠すようなキズに。

 こっちむいてエンジェル
 辻村園子は作家で、TVで人生相談を受け持っている。そのせいもあって、個人的な相談者が押し掛けてくることがある。今日も社内恋愛の末 捨てられた若い女性が、赤ん坊を抱えてやって来た。追い返した翌日、彼女の死体がアパートで見つかる。だが、赤ん坊の姿はなかった。その場に居合わせた編集者 入江伸子は、彼女の証言を思い出しながら、赤ん坊の父親の特定に入る。彼女を殺したのはその男に違いない、と確信していた。

 眠ってサヨナラ
 入江伸子の女性同僚がバイクで事故死した。居眠り運転が原因らしい。担当の引継ぎもあって取材先の観光会社に行くと、そこの女性課長が倒れて入院していた。奇妙な符合に、入江は疑問を抱く。

 バッド・チューニング
 小暮雄吉は男女三人の混声コーラスグループ スリー・パーセントのマネージャー。スリー・パーセントは鳴かず飛ばずの日々が続き、三人の仲も険悪になっているようだ。女性アイドルのスキャンダル騒動鎮静に走り回り、見知らぬ男に襲撃されるという不可解な事件にもまきこまれている最中に、紅一点のタフィーが故郷に帰ってしまった。小暮はメンバーのジャイロと共に後を追う。海沿いの細い崖道に車を走らせていると、対向車が突っ込んで来た。小暮の後続の車を巻きこんで大破したそれに乗っていたのは、もう一人のメンバー ネスパだった。小暮は、狙われていたのは自分だと直感する。

 遅れて来た年賀状
 渋沢哲次はある日いきなり会社の上司に呼び出された。哲次が副業をしている、それもポルノ雑誌の通販をしていると決めつけられたが、哲次にはまるで身に覚えがない。だが、哲次の住所が問い合わせ先として載っている広告がある。自分宛ての手紙が開封されていることに気づいた哲次は、濡れ衣を晴らすため、自宅の郵便受けを監視し始めた。

 迷い道
 嵐の中、宇佐見孝一は富由子との別れ話がこじれ、気がそれた一瞬に自動車事故を起こしてしまった。相手の運転手は衝突のせいで同乗していた女が死んだと主張し、死体の処理を押し付ける。動転していた宇佐見に対し、富由子は案外冷静だった。死体の矛盾点を後から指摘し、宇佐見との共犯関係を脅しとして使ってくる。宇佐見は相手の運転手を何とか探し出し、富由子を殺して欲しい、と申し出た。

 密室の抜け穴
 夜中、第二大和ビルの三階で男が殺された。発見者はガードマン、普段は一階の警備室にいる。誰も通り抜けた者はいない、という証言に、侵入経路として浮かび上がったのは隣のビル。二階のトイレの窓から出入りできるらしく、屋上から飛び移れば侵入、逃走もできなくはない。ただ、その日、トイレの窓は施錠されていた。警察は改めて犯行を見つめ直す。

 アウト・フォーカス
 島根県のある池で、女性の死体が発見された。傍らに制作会社親日シネマのカメラが落ちていたことから、制作部の新庄美枝に連絡が入る。どうやら機材部の責任者が、無断で機材を貸し出して小遣い稼ぎをしていたらしい。その責任者も、本人のアパートでガスで亡くなった。カメラは誰に貸し出されたのか、だが制作部のメンバーは皆、別の地方にロケで出ていてアリバイがあった。

 ダブル・プロット
 江ノ島で見つかった若い女性二人の心中事件。その新聞記事を題材にミステリーを書く、という企画が二つの雑誌から同時に持ち込まれた。こんなことがあるのか、と驚く作者。何か狙いがあるのではないか、と憶測を巡らせる。…

 1983年、84年頃に発表された短編作品。この時代の作家さんはこんなに量産してたんだなぁ。しかも心理トリックとかではなく、物理的なトリックがメイン。密度が濃い。誠実さを感じるほど。
 井上さんの好みもあって、『記録された殺人』なんかは当時の最先端の技術が扱われている分、今読むと「懐かしい」が先に立ちます。登場人物の何気ない会話にしても、今ならハラスメントで訴えられるんじゃないかと一瞬引いてしまう。素直に楽しめなくなっているのが、ちょっと残念な気がしないでもない。
 『ダブル・プロット』で扱われている記事は、恩田陸さんが『灰の劇場』で参考にした記事とは違うよなぁ。時代を超えて、一瞬疑ってしまいました。岡嶋さんたちが辿り着いた「真実としか思えない結論」はどういうものだったのか是非知りたいです。