読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

フィッシュストーリー 伊坂幸太郎著 新潮社 2007年

 今までの伊坂作品に出てきた人物が、ちらっと出てくる短編集。

 『動物園のエンジン』
 夜の動物園に通う河原崎と「私」。そこでシンリンオオカミの檻の前で寝ている元職員・永沢を見る。動物園をこよなく愛する永沢は、以前シンリンオオカミを逃がした責任を負って動物園を辞めていた。毎朝動物園を出て近所のマンション建設予定地で反対運動のプラカードを持つ永沢。「私」と河原崎、動物園職員の恩田は、その行動の動機を推理する。前の市長が殺害された事件と関わりがあるのではないか、病弱な少年が窓から眺める世界を守ってやりたかったのではないか、別れたきり会えない息子にメッセージを送っているのではないか。やがて真相が明らかになる。…
 …『オーデュポンの祈り』の伊藤君がゲスト出演。この動物園は『アヒルと鴨~』でレッサーパンダの盗まれた動物園でしょうか、脱力するラストがお見事(笑)。
 でも河原崎さんは自殺してしまうみたいだし、恩田さんは新興宗教に入ってしまうみたいだし、この先暗澹。気になります。

 『サクリファイス
 その筋の人に、山田と言う男を探してくれと頼まれた黒澤。宮城と山形の県境にある集落・小暮村にやって来た。その村には江戸時代から続く「こもり様」と言う儀式があるらしい。その昔山賊退治の生贄にされた娘に端を発するこの儀式に、何故か何度も周造と言う男が当たっているとのこと。過疎化の進んだ村のこと、村長の陽一郎がわざと周造をこもり様にしているのではないかと言う噂の飛び交う中、黒澤は「こもり様」の閉じ篭る洞窟に向かう。…
 …この話、好きだなぁ。許しちゃいけないことをしてるんだけど、でも何でこんなに好感度高いんだ。

 『フィッシュストーリー』
 とある小説の一節を歌詞にした歌を軸に描かれる数十年。
 二十数年前。泣かず飛ばずで解散したとあるバンドのカセットを聴きながら車を運転していた「私」。意図的な効果か録音ミスか、曲の流れない空白の時間に女性の悲鳴が聞こえてきた。
 現在。コンピューターエンジニアの勉強会に参加した帰りの飛行機の中で、橘麻美は瀬川に出会う。父親から正義の味方になるよう教育されたと言う瀬川は、ハイジャック犯を片付ける。
 三十数年前。最後のアルバムを出そうとしているとあるバンドの話。
 十年後、世界規模でのハッカー騒動を未然に防いだ麻美を、「僕」はインタビューする。…
 …これは伊坂さんお得意のパターンですね、時間が捻れて繋がって行く。他作品との共通人物って、同じ飛行機に乗ってた老夫婦でいいんでしょうか。

 『ポテチ』
 代打専門の野球選手・尾崎の家に空き巣に入った今村忠司と大西若葉。せっかく不法侵入したのに、今村は漫画本を読み耽るばかり。そこに偶然掛かってきた電話から、いかにも男好きしそうな幼顔の女に出会う。何とも大らかな今村の母、今村が慕う先輩空き巣・黒澤と知り合って行く大西。万有引力ピタゴラスの定理を自力で発見する今村は、何故か尾崎にこだわる。…
…女性の表記を「大西」って苗字だけ、ってのは珍しい気がする。黒澤さん、あちこちに出てくるなぁ。今回は『重力ピエロ』のお兄ちゃんも少しだけ出てきましたね。
 結末まで分かった上で読み返すと、ポテトチップの塩味かコンソメ味かで泣いた今村の場面が胸に響きました。

 相変わらず、ちらちらと時代の流れを危惧する台詞がありますね。多少唐突な気もしないでもないけれど、作者としては入れたいんだろうなぁ。
 これで多分、伊坂作品全部読んだことになるんじゃないかな。…伊坂さんも新作を待つ立場になったのかぁ。ふぅ。