読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 山本泰平著 柏書房 2019年

文学史&エンタメ史の未確認混沌時代(ミッシング・ピース)!

東海道中膝栗毛」の弥次喜多が宇宙を旅行する、「舞姫」の主人公がボコボコにされる、身長・肩幅・奥行きが同じ「豆腐豪傑」が秀吉を怒らせる――明治・大正時代、夏目漱石森鷗外を人気で圧倒し、大衆に熱烈に支持された小説世界が存在した。
本書では、現代では忘れられた〈明治娯楽物語〉の規格外の魅力と、現代エンタメに与えた影響、そして、ウソを嫌いリアルを愛する明治人が、一度は捨てたフィクションをフィクションとして楽しむ術(すべ)をどのようにして取り戻したのか、その一部始終を明らかにする。
朝日新聞スタジオジブリも注目する、インターネット出身の在野研究者が贈る、ネオ・文学案内。    (紹介文より)

 文筆家の岡田斗司夫さんが YouTubeで紹介されていて、興味を持った本。
 明治時代、西洋美術の写実主義が文学にまで影響を及ぼし、文豪が後世に残る作品を純文学として残している傍ら、実際には山のように読み捨てられていた娯楽本があった。…ってのは言われてみれば確かにそうだろうな、と思いました。現代日本でも歴史に残る傑作は一握り、毎月初版で絶版にされちゃうような漫画やラノベやミステリやホラーや恋愛小説や…ってのが数限りなく出版されてるものねぇ。そういう凄まじく広がっている裾野を、現代ものならまだ追いかけて研究できるかもだけど、過去遡って、ってのは凄い。こんな根気のいる作業をしている人がいるなんて!(笑)
 面白かったです。諸外国のエンタメ小説の歴史事情とか勿論知らないけど、日本のエンタメは確実にずっと繋がってるな、と感じました。身長・肩幅・奥行が同じ豆腐豪傑 桂市兵衛とか(わざわざ豆腐の写真とか載せなくていいww)、尾田栄一郎先生絶対好きなビジュアルじゃん、綿密(?)に立てた計画を気が短くて待てないとかルフィじゃん!(笑) 物語の後半になると作者が疲れて展開グダグダとか人気が出たら路線変更して続編とか一昔前の少年漫画でよく見た光景、こんなの引き継がなくていい所なのに(苦笑;)。「面白いこと」至上主義、理屈なんてどうだっていい、から徐々に合理的に。…とか言いながらまだまだ荒唐無稽だったり(笑)。
 〈犯罪実録〉というのは、京極堂シリーズでもちらっと触れられていたような…。推理小説のアリバイトリックが「自転車で速く移動した」ってのは、今となっては「時代だったんだねぇ」としか言いようがない。
 押川春浪という作家を私は知らなかったのですが、「天狗倶楽部を設立した人」ってことは、大河ドラマ『いだてん』で出て来てたあの人ですよねぇ。日本SFの祖なんだぁ。江戸以前の料理人が語ったという「最近の料理は美味くなったが退化している」の言葉には、しみじみ納得しました。確かに、温かいだけでご馳走だわ。
 誤字脱字をいくつか見かけたのが残念でした。校閲さんどうしたのかな、この量じゃ仕方ないのかな(苦笑;)。
 そうそう。『舞姫』が発表された当時でも、主人公の行動に眉を顰めていた人がいたことを知れたのは僥倖でした。教科書で読んだ高校の頃は、「こんなものなのかなぁ??」と無理矢理納得してたんですが、やっぱりあれは無責任だよ、と改めて思うので。森鴎外、いい加減にしろよな。