読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

あなたの涙は蜜の味――イヤミス傑作選 辻村深月/宇佐美まこと/篠田節子/王谷晶/降田天/乃南アサ/宮部みゆき著 細谷正充編 PHP文芸文庫 2022年

 イヤミスアンソロジー集。
 ネタばれあります、すみません;

 パッとしない子――辻村深月
 松尾美穂は小学校の美術教諭で、今をときめくアイドルグループ『銘ze』の一員 高輪佑の弟を担任したことがある。佑自身も教科で教えたことがあったが、兄弟のどちらも印象に残る子ではなかった。そんなある日。「母校を訪ねる」という企画で、佑が美穂の前に現れる。「先生、ぼくのことを、当時はパッとしない子だったって、あちこちで言ってるって本当ですか?」

 福の神――宇佐美まこと
 冴子の娘 小学六年生の万結は、ピアノのコンクールで優勝した。優勝候補の彩音ちゃんが、予選の直前に交通事故にあい、出場できなかったことが大きい。
 義母はカラオケ教室の先生に夢中、だが先生は妻が大病を患った頃から、妻の看病以外眼中になくなった。夫はイベント企業を起ち上げたものの、新規のライバル会社に抜かれて青息吐息、冴子自身は、大学時代の友人が次々男遊びを繰り返し、こともあろうか冴子がかつて仄かに思いを寄せていた同級生と関係を持っていることを知って愕然としている。
 だが、ある日以来、全てが自分たちの都合のいいように動き始めた。カラオケ教師の妻は亡くなり、夫のライバル企業は倒産した。義母がある友人を連れて来てから。

 コミュニティ――篠田節子
 妻がリストラにあい、夫も給料を削減されて、遠藤夫婦は郊外の公社住宅に引っ越した。噂話に興じる団地の付き合いを嫌がる妻、だが一斉清掃日以降、吹っ切れたように馴染み始める。夫にもその日、声をかけてくる女がいた。

 北口の女(ひと)――王谷 晶
 不祥事で事務所をクビになり、故郷に戻って来た大物演歌歌手 磐梯山ミヤコ。付き人の「私」は引きこもるミヤコに代わり、近所の弁当屋で働いている。ある日「私」は常連客の中に、驚異的に歌の上手い女がいることに気づき、ミヤコに報告した。

 ひとりでいいのに――降田 天
 弓野真帆と里帆は双子の姉妹。一卵性で、顔も背格好もそっくり同じ、だが真帆の額にニキビができた頃から、二人に差ができ始めた。里帆は成績優秀で男子にも人気があり、高校から東京の私立に通った。真帆よりいい大学に進学、アナウンサーになった。同じく上京して一緒に住み始めた真帆は、次第に里帆への殺意を募らせていく。ある日、二人一緒に交通事故にあい、里帆が記憶喪失になったと知って、真帆は自分が里帆だと名乗った。最初は意気揚々と生活していたが、次第にストレスを感じ始める。

 口封じ――乃南アサ
 病院で付添婦をしている孝枝は、入院患者を叩き起こして、そこのベッドで昼寝をするような性格。小学校を出る前からグレはじめ、高校へは行けず、二人の子供も可愛いとは思えない。子供の境遇を見て、近所の主婦が孝枝の家に乗り込んでお説教を始めた。大学出だと言うその女は、年末、脳溢血で倒れて孝枝の勤める病院に担ぎ込まれる。

 裏切らないで――宮部みゆき
 画廊に勤める若い女性が、夜遅く、自宅近くの歩道橋から落ちて死んだ。自宅アパートには借金の督促状、どうやら自殺と考えられたが、加賀美刑事は違和感を抱く。ショートにしたばかりの髪型、ファッション雑誌に載っているようなお洒落な部屋、クローゼット一杯の流行の服にアクセサリー。彼女は東京を満喫していた。…

 アンソロジーだと気付かず、辻村さんの名前を見て予約を入れた一冊。
 辻村さんと宮部さんの短編は読んでましたね。宮部さんの作品は、読んだのは二十年以上前の筈なのに結構よく覚えていて(私の割には!・笑)、自分で驚きました。そうそう、これ『火車』の先駆けともいえる作品なんだよなぁ。
 どの作品も面白かったです。
 『福の神』は何だかホラーだし、『コミュニティ』は「気持ち悪い」方に感情が振られました。『ひとりでいいのに』は、視点が変わるとこうなるのか!の妙を味わえましたよ、入り方が洒落てるなぁ、とも。『北口のひと』はかえってプロ魂を垣間見た気がしましたし。
 で、自分にとってエンタテインメントとして気にせず読めるイヤミスと、心の回復が必要なイヤミスがあるんだな、と気が付きました(←今更)。「こんな人いるよね」的な性格の悪い人が出てくると、読み終えたあとで一息ついて、気分を奮い起こさなきゃいけなくなるなぁ、と。
 ちょっと今は明るい話が読みたいかも(苦笑;)。