読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

希望荘 宮部みゆき著 小学館 2016年

 連作短編集。

 聖域
亡くなった筈のおばあさんを見かけた、という人物が現れた。新興宗教に凝った娘に金品を巻き上げられて、隠れるようにアパートに一人住まいしていたのだという。大家さんに「死にます」の電話をしたまま、行方不明になってしまった。後に残された荷物の中に高価そうなブックカバーを見つけた杉村三郎は、その品を扱う店を訪ねてみた。

 希望荘
施設に入っていた父が、生前、まるで人を殺したことがあるかのようなことを喋っていたという。切っ掛けは近くの公園で起きた通り魔事件、「こういうのは、憑き物みたいなものなんだよ」と語っていたとか。幼い頃両親が離婚して、自分は母親と共に暮らしてきたという依頼人は、父親との間に35年間もの空白がある。果たして父親は本当に殺人を犯していたのか。杉村は、かつて父親と一緒のアパートに暮らしていた若者が、人を殺して捕まっていた事件を知る。

 砂男
杉村三郎が妻と別れ、実家に帰って地元の市場で働いていた頃。調査会社を経営する蛎殻昴が、杉村に調査の協力を依頼してきた。たまたま杉村が配達に行った先、夫婦で仲睦まじく蕎麦屋を営んでいた巻田夫妻の夫の方が、不倫相手と駆け落ちしてしまったらしい。だが不倫相手とされた娘の母親からの、この話は信用できない、との調査の依頼に、杉村も巻き込まれて行く。それは巻田の過去を追求する作業となった。

 二重身(ドッペルゲンガー
震災の影響で、杉田は住居兼探偵事務所の古屋を追い出され、代わりに大家さんの家の一角に住むことになった。そこを訪れてきた黒尽くめの少女は、アンティークショップの経営者を探しているという。母親の交際相手だった彼は、丁度震災の時、東北地方に買い付けに行っていたらしい。少女の交友関係があまりよくなさそうなこともあって、杉村はこの依頼を受けることにする。…


 大ショックを受けた前作のラストから数年。一話目、いきなり杉村さんが探偵になっていて驚きました。三話目でその経緯も語られる訳ですが、どうやら分かれた奥さんや子供ともそこそこうまくやっている様子です。…杉村さん、人がいいんだから。
 面白かったです。どれもこれも哀愁が漂い、後味はやっぱりすっきりしない。でも納得しちゃうんだよな~。
 相変わらず、根底で人を見る目が優しくて。胡散臭いとされる宗教的なものにまで、それを認める目が温かい。杉村さんの視線、ひいては宮部さんの視点なんでしょうね。
 もしかしてこの作品、宮部さん風ハードボイルドなのかしら。
 まだまだ続きが出そうな感じ、続編も期待できそうです。