読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

鯉姫婚姻譚 藍銅ツバメ著 新潮社 2022年

 日本ファンタジーノベル大賞2021大賞受賞作。
 ネタばれあります、すみません;

 異国から巨大な黒い船が来る前の頃。
 父から受け継いだ店をうまく経営できず、孫一郎は妾腹の弟に家督を譲って別邸に移り、若隠居を決め込んだ。父が遺したこの屋敷の庭に、人魚が棲んでいるとも知らずに。
 おたつと名乗る童女の人魚は孫一郎に懐き、夫婦になりたいと言う。菓子でも果物でも握り飯でも天麩羅でもばりばりと嚙み砕いて食べ、孫一郎に御伽噺を強請る。望まれるまま、昔話を語る孫一郎。三人姉妹の末娘が猿と結婚する話、八百比丘尼が命を譲り渡す話、つらら女と結婚した男の話、蛇女と結婚し子まで成した話、馬と結婚した娘の話。どれも幸せな終わり方はしないのに、おたつはいい話だ、という。
 身の回りの世話してくれていた老婆の死をきっかけに、孫一郎はおたつを湖に返そうと決意する。だが、湖の畔に着いてさえ、おたつは孫一郎と一緒にいるという。これから何百年も、何千年も。…

 ラストに驚きました。こうくるか、てなもんで。で、この作品をあわよくばシリーズ化しよう、とかいう邪心(笑)を持たない潔さにも好感を持ちました。
 昔話、民話の類は好きです。ああ、洋の東西を問わずこういう異類婚姻譚あるよね、と読み進んでいったら。…そうか、ずっと不穏さ、凶暴さが底に流れてるな、とは思ってたんだよ。
 蛇が自分の目玉を授乳の代わりに赤ん坊にしゃぶらせる、ってのは定型なのかな、『竜の子太郎』でもそんなエピソードがありましたよね。
 人外なものに好かれる系譜は生きてるんでしょうか、弟の孫に引き継がれているようで。人からは不幸に見られる結末でも本人たちにとっては幸せなのか、でもあんな痛そうな最後は嫌だけどなぁ。