読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

箱庭の巡礼者たち 恒川光太郎著 角川書店 2022年

 連作短編集。

 箱の中の王国
 洪水の後、拾った黒い箱の中には小さな世界があった。塔があって城があって森があって、竜や吸血鬼が住んでいる。その世界の観察に夢中になる「ぼく」内野陽。共有するのは同級生の絵影久美。家庭に問題を抱える彼女は、やがて、箱庭世界に入りたいと言い始める。圧政が敷かれ、殺人鬼が横行するような世界なのに。彼女が殺人鬼を倒し、革命を引き起こす頃、内野の元に「黒い箱を探している」人物が現れる。

  物語の断片1 吸血鬼の旅立ち
  吸血鬼ルルフェルは迫害され、森でひっそり暮らしていた。ある日、エカゲと名乗る少女が現れ、今までの態度を改めたいと言ってくる。それから数十年。彼女の孫ミライが再びルルフェルの前に現れ、一緒に旅をしたい、それが祖母の夢でもあったと語りかける。

 スズとギンタの銀時計
 炭鉱で父は死に、母は行方不明になった。スズとギンタの姉弟は都会に出て働いた。スズがカフェで出会った外国人ショーンはスズの目の前で変死し、一緒にいたスズの手に、針が一本しかない銀色の懐中時計が残される。それは未来にしか飛べないタイムマシンで、二人はそれで時間跳躍を繰り返し、何度も危機をやり過ごした。身の危険然り、戦争然り。やがて彼らを追ってくる何ものかの存在を、二人は感じ始める。

  物語の断片2 静物平原
  ミライ・リングテルとルルフェルが辿り着いたタンガース平原では千年前、国を二分した争いがあった。30万の軍隊が対峙し、でも勝敗はつかなかった。何故ならその瞬間、<時空振動>が起きて人々はそのままの姿で静止してしまったから。今では観光名所になったそこを訪れ、ルルフェルはとある異物に気づく。

 短時間接着剤
 房総半島の奥地で、海田才一郎博士は日々、発明と研究に勤しんでいる。今日もお得意様が一人訪ねて来た。その少女は7時間しか保たない瞬間接着剤を買っていく。
 後日、特殊詐欺グループが一斉検挙された。誘き出された犯罪者たちが、次々何かにくっついていく怪現象で逃げられなかった。バイクだったり、床だったり、覚醒剤の入ったアタッシェケースだったり…。

  物語の断片3 海田才一郎の朝
  海田才一郎は自分が発明したぬいぐるみロボットを育てているが、どうもうまくいかない。今日も、祖母のカイダスズが書いた児童書「銀時計の冒険シリーズ」の話を始めたかと思えば、勝手に作った続きを語り出したり。自分のことはシグマと呼んで欲しいらしい。

 洞察者
 ギフテッドの「私」中松泰介は研究施設で育てられた。記憶力に優れた私はやがて、一目見ただけでその人物の背景やこれからするであろうことを洞察できるようになる。確率は60%、今日会った男は通り魔殺人を犯す可能性が高い。泰介は思わず男に声をかける、はじめはポテトチップスの食べ比べから、やがて南米へ行った方がいいというアドバイスまで。プレゼントされたぬいぐるみロボット シグマを相棒に。

  物語の断片4 ファンレター
  カイダスズに届いたファンレターには、一人の少女の見た夢の話が書かれていた。夢の中で彼女はルルフェルと言う名の吸血鬼で、ミライという男と旅している。それはAIロボット シグマが話す内容と酷似していた。

 ナチュラロイド
 人類が伝染病で半減し、さらに世界大戦が起こり、結果ナチュラロイドと名付けられた有機ロボットが社会を構成する王国が広がって行った世界で、「私」ナービは選ばれて王になった。まだ幼いナービに就けられた子守ロボット モックモンと共に毎日を過ごすうち、ナービは自分の両親が、先王オーマに虐殺されたことを知る。その傍にはいつも、シグマという白銀の女性型ナチュラロイドがいたらしい。

 円環の夜叉
 湖で溺れ死んだ筈の「ぼく」ラルスは、何故か生きていた。だが、生まれ故郷は記憶の中のそれと微妙に違う。ラルスの前に現れた女性はクインフレアと名乗り、ラルスは不老不死になったのだ、あれから80年が経っていると告げる。その後数百年。人間の中で過ごしてきたラルスは、息子の生まれ変わりだろう青年に出会う。彼も不老不死にしたい、とクインフレアに訴えるラルス。クインフレアは、この世界が八千年周期で滅びを迎え、もうすぐまたその時が来るのだと言う。

  物語の断片5 最果てから未知へ
  ルルフェルの元を一人の少女が訪う。ルルフェルと旅に出たいと、ミライの孫クインフレアが。…

 三崎亜記さんの、いかにも三崎さんらしい作品集を読んだ後の恒川さん。こちらもいかにも恒川さんらしい。
 『短時間接着剤』だけはちょっと異質だなと思いつつ(笑)。一方通行しかできない筈の世界が、後半どんどん交錯していく。次元鉄道で交ざった、と考えるべきなんだろうなあ。こうなるとラストの世界の壊滅も、箱庭だけのことなのか、現実も混ざったことなのか、何でもありになってくるんですが、酩酊具合も面白がるべきなんでしょう。現に、「おお、ここ繋がったか」と思ってしまったもんなぁ。
 ちょっと立ち止まって考えてしまった分、私は楽しみ損ねた所もあり。短篇それぞれはどれも面白かったです。