読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

鍵の掛かった男 有栖川有栖著 幻冬舎 2015年

 社会人アリスシリーズ、新作長編。

 大阪中之島にある小ぢんまりとした居心地のいいホテル。そのスイートルームの長期宿泊客の男が死んでいた。男の名は梨田稔(69)、ベッドの手摺りにカーテンを束ねる紐を結び、うつぶせ状態で首を吊っていた。孤独な老人の自殺、との警察の判定に、同じホテルを愛用し、常宿としていた作家・影浦浪子は異議を唱える。
 「今まさに警察の不手際によって完全犯罪が成立しかけているのです」――影浦は推理小説家・有栖川有栖と犯罪社会学者・火村英生のコンビに調査を依頼。受験シーズン真っ只中ですぐには動けない火村に先立って、アリスはそのホテルを訪ねた。
 オーナーと支配人夫婦の希望もあって、悠々自適の故人の、あまりにも少ない荷物を調べ、事件当日の常連客や故人が週4回通っていたボランティア仲間に話を聞く。協力を依頼した警察からは、彼が前科者だったという情報を手に入れた。実家のあった西脇市を訪ね、事件の経緯を知る。出所してからの仕事仲間に出会い、彼の生活資金の訳を理解する。だが、判るのは周辺事情ばかり。故人が何を考え行動していたかは一向に見えてこない。
 30年前の過ち、20年前の阪神・淡路大震災、5年前からの梨田の長期滞在。梨田と支配人の関係にアリスが気付いたころ、火村が調査に加わった。そして、梨田からの遺言状とも言うべき書簡が郵送されてくる。
 何故この時期に、誰が何のために。火村は宣言する。「――鍵は開いた」 …


 本の分厚さというか本文の紙の薄さにびっくりした一冊。これ、辞書用の紙使ってないか? 密度が高かったですねぇ。
 相変わらずチャーミングな文章。思わずくすくす笑ってしまうような描写もあれば、30年前の悲劇の後、梨田の行動に対する同情には胸に迫るものがありましたし、「暗闇の中の黒猫」みたいな小洒落た表現もあり。「尻尾を捕まえた。ほら、こいつだ。もう離さない」のセリフにはおお、と思いましたよ。私には真相全然見えてなかったけど(苦笑;)。
 説明を受ければ成程、と納得のいく推理手順はさすがです。犯行の動機付けとしては弱いかな、とはちょっと思いましたが、でもエレガントでしたね。お見事、面白かった。

 そうそう、TVドラマの方も、キャストはイメージと全然違ったんですけど、それなりに楽しんで見てます。…意外なことに(苦笑;)。火村先生あんなに変人だったのかとか、アリス男前すぎるやろとか、何より下宿のおばちゃん違いすぎるとか、言いたいことはあるんですけどね。