読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

長い廊下がある家 有栖川有栖著 光文社 2010年

 社会人アリスのシリーズ、連作短編集。

 長い廊下がある家
 京都の綾部山、長い地下通路で繋がれた空き家は隠れた心霊スポットになっていた。限界集落のフィールドワークをしていた英都大学の学生・日比野浩光が偶然その屋敷に迷い込む。丁度そこではオカルト雑誌の取材撮影が行われていた。女性ライターの九谷安寿、カメラマンの砂子勇、編集社の市原朔太郎と、好奇心にかられて地下通路を見て歩く日比野。あと一人のレポーター・宮松達之を待って取材が行われる筈だったのに、宮松は機嫌を損ねて現場に来ないらしい。宮松なしでの取材後、散々飲み食いした翌日の朝、地下通路の真ん中の扉の向こう側で宮松の刺殺死体が発見された。この状態を信じるなら、三人には宮松を殺す時間はない。密室かアリバイか。火村とアリスが呼ばれた。

     関東深夜番組に対する愚痴というか負け惜しみというかが妙に見につまされました。
     「テレビの話題ごときに取り残されても何の不都合も感じないが」…いや、少々感じます;
     そうそう、赤川次郎さんの初期の幽霊シリーズの短編『双子の家』を思い出しました。


 雪と金婚式
 田所夫婦が金婚式の夜をささやかに祝っていた頃、離れでは義弟が殺されていた。11時過ぎまで雪が降っていたので犯行時間が特定でき、そのために容疑者二人ともに犯行不可能だと判断された。一人は犯行時間直前に、一人は直後にアリバイがある。だが、主人はこのトリックに気付いたらしい。警察に話しに行く、と妻に語っていた矢先、階段から転倒して記憶喪失に陥ってしまった。田所氏は何に気が付いたのか。火村準教授とアリスが話を聞く。

 天空の眼
 隣人の私立女子高の女性英語教師を通じて、アリスは心霊写真の相談を受けた。彼女の東北旅行の写真を「心霊写真だ」と断じた男子学生が、今度は殺人事件の容疑者となった。彼の友人が、姫路の彼の親戚の家の屋上から落ちて死んだらしい。既に空き家になっていたその家に、赤の他人である被害者が何故入り込んでいるのか。魔除けとして置いてあった鉄のオブジェとの関係は。心霊写真を解明するうち、アリスはその動機と犯行方法を思いつく。
 
 ロジカル・デスゲーム
 もぐりで聴講していた生徒・千舟傑に騙されて、火村はロジカル・デスゲームに付き合わされる羽目に。関西方面で頻発していたトリカブト毒での自殺事件は、彼の仕業なのだとか。三つのグラスのジュースのどれかは毒入りで、火村は一つを選んで飲むよう強要される。千舟の目を盗んで火村が咄嗟に取った方法とは、どうやって彼は助かったのか。…

 お久しぶりのアリスシリーズ。
 ええと、今までのシリーズでも、こんなにアリスかわいかったっけ??(笑) 一話目『長い廊下がある家』で、アリスが披露する荒唐無稽な推理にノってみせる火村の姿に、そして賛同を受けて調子付いて行くアリスの様子に、「おい、アリス、おちょくられてるぞ、しっかりしろー!」と声をかけたくなりました。「志村、後ろ、後ろー!」のノリで。
 『ロジカル・デスゲーム』の出だし、火村とアリスのやりとりは、何か色っぽさまで感じましたね。ごちゃごちゃ拗ねるアリスに冷静に叱咤する火村。この<モンティ・ホール問題>って確率論は以前他ででも聞いたことがあって、でもその時は今イチ理解できなかったんですが、今回の「じゃあ、初めに百個あったとしたら」てのはすごく分かり易かったです。さすが火村先生。丁度NHKの深夜に品川ヒロシさんが、この問題にも触れた番組をやっていて、何だか縁を感じてしまいました。毒杯の逃れ方にも「あっ!」でした。
 『天空の眼』は珍しくもアリスが一人で解決するパターン。これ、好きだなぁ。犯行方法ではなく動機の方、心霊写真にどうして仕立てたかったのかが成程な、と思えて。
 何か久しぶりに、カタルシスが味わえた気がします。推理小説ってやっぱり面白いわ。