読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

臨床犯罪学者・火村英生の推理 密室の研究 有栖川有栖著 角川ビーンズ文庫 2013年

 社会人アリスシリーズの中で<密室もの>を選んだ短編集。
 ネタばれあります、すみません;

第一話 人喰いの滝
 降り積もった雪の上、崖に向かって躊躇いなく一直線に続く足跡は、被害者の長靴のものだった。だが被害者が思い悩んでいる様子はなかったと言う。一年前に同じ川に落ち、以来行方が分からない女優との関連はあるのか。被害者の長靴が真新しいものだったことから、火村は足跡の不自然さに気付く。

第二話 蝶々がはばたく
 加賀へ蟹を食べに行こう。その旅の途中、アリスは一人の老紳士に会う。紳士が語る35年振りに見かけた知人の話は、解決編のないままアリスに投げられた。35年前、伊豆の海辺の宿から二人の男女はどうやって消えたのか。火村が安楽椅子探偵ぶりを発揮する。

第三話 壺中庵殺人事件
 地下室で首を吊って死んでいた男は、頭に壺を被っていた。梯子でしか下りられない扉には、閂がかかっていたと言う。自殺とはどうしても思えない有り様に、火村は密室の謎を解いてみせる。

第四話 雪華楼殺人事件
 建造途中のまま打ち捨てられた旅館から、一人の男が落下した。後頭部には鈍器で殴られた跡、何者かに殴られた後、屋上から投げ出されたと思われたが、屋上の雪上には男の足跡しかない。一緒に棲みついていた少女は錯乱状態で記憶がはっきりしないと言う。窓から男が落ちて来るのを見たのは覚えている、と語る少女。火村は一つの推測を出す。

第五話 シャイロックの密室
 高利貸しの男が密室で死んでいた。拳銃で自らの頭を撃ったかのように偽装されていたが、被害者の姉は、利き腕が違うから自殺ではないと言う。部屋の額が一定方向に傾いていたことに気が付いた火村は、密室を作ったトリックに気付く。

第六話 あるいは四風荘殺人事件
 さる大御所の遺作は、解決編がないままの本格推理小説だった。東西南北、四つの離れに向かう足跡が意味するものは。アリスへの依頼は、火村の元に持ち込まれる。果たして、解答は。…


 新作短編集かと思ったら、どうも今までの作品を編みなおした作品集だったようで。
 細かい事件の状況は忘れていたものの、トリックは覚えていたものが多かったです。「あれ、これMRI使ったやつじゃなかったっけ」とか「ああ、これここが回転したような気が…」とか。
 ただ、『雪華楼殺人事件』だけは本当に覚えが無くて、…これ、読んでなかったのかもなぁ。若い男女の逃避行の様子を、「彼と彼女をつないでいたものか愛なのか、退屈なのか、絶望なのかも判らなかった。あるいは、それらのうちいくつかが溶けあっていたのか?」「彼らは、孤独の波にに流されながら、同じ浜に漂着しただけ」なんて、とにかく妙にロマンチックな表現なんですよね。「寒さが背中から抱きついてくる」ってのもほう、と思いましたし。この辺り有栖川さんの作品だよなぁ。
 麻々原絵里依さんのイラストも愉しい一冊でした。