読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

オーリエラントの魔道師たち Scribe in the Darkness 乾石智子著 東京創元社 2013年

 短編集。

紐結びの魔道師 Lik Enciss
紐をさまざまに結ぶことで魔法をかけるテイクオクの魔道師・リクエンシスを訪ねて、貴石占術の魔道師・カッシが現れた。カッシの狙いはリクエンシスが持つ<炎の玉髄>、だがこれはいい退屈しのぎができる、とリクエンシスはほくそ笑む有り様。ところが間の悪いことに<神が峰騎士団>の銀戦士も、魔道師狩り目的でこの田舎町にやって来た。一度はカッシを人身御供にしたリクエンシスだが、結局カッシを助ける羽目になる。

闇を抱く Witches in Fedelent
混血が進み、民族の誇りが愚かな拘りとしてしか残らなくなった時代。父の横暴にこらえられなくなった機織りの少女・オルシアに、一人の魔女(アルタ)が紹介された。日常的に使うものと身体の一部などを使ってかける魔法アルアンテスは、うちのめされた者だけが持てる魔法。舅に善意を悪意で返されたカリナ、嫁ぎ先で使用人のように扱われたロタヤ、第二王子サークルクに嫁いだゾーイ。男に搾取され続けた女の、自分たちを救うための密かな反乱を描く。

黒蓮華 Black Lotus
ガライル族はコンスル人に滅ぼされた。ただ一人の生き残りで、人間や動物の死体を用いる魔法・プアダンの使い手である「わたし」は、三十六年の歳月の後、自分の家族を殺した男・アブリウスと再会する。息子や娘と共に、幸せに暮らすアブリウス。そして、「わたし」の復讐が始まった。

魔道写本師 Scribe in the Darkness
写本師イスルイールは、数十年振りに父親違いの弟・ヨウデウスと出会った。甥っ子と三人で酒宴を楽しんだ深夜、見知らぬ来訪者に家を焼き払われる。来訪者は水の魔道師ハイム、彼の目的はイスルイールが弟子として雇っている少女ナンナらしい。顔の輪郭に沿って鱗のような痣のある少女はハイムから逃れ、イスライールに庇護されていた。…


 これまでの物語で登場した人物だの団体だのがちらほらと見受けられる短編集、根底に流れるのは辛い過去だったり暗い思いだったりするんですが、身近な所から発想される魔法がやっぱり楽しい。確かに紐の結び方にも個性が出るかもなぁ。文字だって、書き文字ならなおさら、活字でさえ同じ言葉でも漢字だったりひらがなだったりカタカナだったり、フォントが違えばさらに受ける印象が変わりますものね。
 解説の三村美衣さんの、世界や歴史に翻弄される人間ドラマではなく、魔法が中心に据えてある、という言葉に納得。確かに、魔法を上手く使いこなす物語を書ける人、って案外少ない気がする。
 今回は地図だけではなく、年表もついていてちょっと嬉しい。
 刊行ペースが速い気がするのがちょっと心配です。決して量産型の作家さんではない気がするので。一年で一冊で構わないから、確実に面白い物を書いて欲しいなぁ。