読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

久遠の島 The book of pledge 乾石智子著 東京創元社 2021年

 〈オーリエラント〉シリーズ、『夜の写本師』へと連なる最初の物語。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 〈久遠の島〉、そこは世界中のあらゆる書物を見ることができ、本を愛する人のみが入ることを許される楽園だ。全ての書物が今保存されている状態で〈匐竜樹〉の枝先に生る。千年ほど前に400人の魔道師の力を持って作られたこの島を守っているのはジャファル氏族、外国からの来訪者を世話する役割も持つ。
 あるとき、ひとりの魅力的な青年が島を訪れた。サージ国の第14王子セパター、愛嬌たっぷりにジャファル族の少年ヴィニダルに案内を請う彼は、だが、目的のためなら手段を選ばない非道な人物だった。彼は本の好事家として、この世に二つとない書物 ジャファル氏族の家系図と『誓いの書』を手に入れる決意をする。その本が魔法の要で、それがないと島が沈んでしまうことを知りながら。
 かくして、島は沈んだ。二千人の命を道連れにして。生き残ったのはたった二人、ヴィニダルとシトルフィ。ヴィニダルは家系図の第一巻を、幼馴染みの少女シトルフィは『誓いの書』をそれぞれセパターから何とか奪って、各々大陸に流れ着く。
 ヴィニダルは密林が国の大部分を占める国マードラへ、漁師や呪師ダダメカにこき使われながら、各国の言語が堪能だったことを武器に王宮神殿へ潜り込む。魔道師バリニウスの下で呪符作りに勤しみ、図案の才能を開花させ、マードラ呪法に精通していく。
 シトルフィは、連合王国フォトに留学していたヴィニダルの兄ネイダルを訪ねようとするが、セパターの麾下に追われ、水の魔道師オルゴストラの隠家に匿われる。オルゴストラはサージ国の信仰するジオラスト教のために生後三日で供物として火にくべられた過去を持ち、ためにサージ国のありようを憎んでいた。シトルフィはここで、絵を描くことに目覚めていく。
 シトルフィはやがて、文字を極め、王宮書記にまで出世したネイダルを訪れる。島外のジャファル氏族の生き残りは、彼女の証言と『誓いの書』を証拠として セパター王子を告発しようとするが、王子はその蔵書を使ってそれなりの地位を確立しており、訴えは揉み潰されてしまった。
 復讐に走る者、諦める者。新しい道、幸せに進めというオルゴストラの助言もあって、ネイダルとシトルフィは本を作る側に回ろうと、写本の町パドゥキアへ移り住む。インクを作る所から始めて修練に励む二人は、そこでヴィニダルと再会する。ヴィニダルはマドーラ国で派閥闘争に巻き込まれ、パドゥキアを目指し砂漠を越えて逃げて来たのだ。
 造本の技術を身に着けていく三人。漸く一人前になれたかという頃、セパターがまだ『誓いの書』や家系図の第一巻を諦めていないこと、仲間も殺されているという情報が入る。三人はセパターとの決着をつける為、偽の『誓いの書』の作製を思いつく。見る者を陥れる魔法の書を。…

 うん、面白かった。安定感半端ない。
 ハッピーエンドだろう、ということは察しがつくので(ごめんなさい;)、そこに到達する流れを楽しむと言うか、どういうルートを辿るんだろう、どういう方法で行動を起こすんだろう、と読んで行く感じ。で、それを裏切らない、がっかりさせない。一つ一つ、大事に積み上げてきたものが実を結ぶのは、読んでてやっぱり気持ちがいいです。
 ジャファル氏族が滅びない限り〈匐竜樹〉が復活しない、ということは結局復活は無理なんじゃいか、と思いつつ。万一のことがあっても、という安心感ってことなのかなぁ。
 装画は羽住都さん、このシリーズではお馴染みですね。本の内容を暗示する繊細なイラスト、本当に似合ってるのも嬉しい。この本が愛されて作られた証拠のようで。