読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

黒王妃 佐藤賢一著 講談社 2012年

 イタリアの名門メディチ家から、フランス王家に嫁いだカトリーヌ・ドゥ・メディシスの半生。
 夫・アンリ二世の死後は生涯黒衣を纏い、「黒王妃」と呼ばれた彼女が過去を語り、今を生きる。

 母方の血筋としては王家の血を引いたカトリーヌ・ドゥ・メディシスも、フランス王家アンリ王子に嫁いでみれば「おみせ屋さんの娘」と陰で蔑まれる身。出しゃばらないように、目立たないようにと気を使う一方、その洗練された美意識とセンスで義理の姑や小姑を味方に引き入れるが、長男フランソワ二世の嫁マリー・スチュアールとの折り合いはよくない。
 カトリックの総本山のイタリアと、フランスの価値観の違いにも違和感は拭えない。愛妾が恥ずかしげもなく大手を振って王宮を闊歩し、政治にまで口を出す様は理解できるものではない。両親の情に不遇だったアンリ二世は母親代わりに18歳も年上のディアーヌ・ドゥ・ポワティエを寵愛し、半ば蔑ろにされたカトリーヌと合わせて、世間では三人世帯(メナージュ・ア・トロワ)と噂される始末。
 だがカトリーヌはフランス王となった夫との間に10人の子を儲け、徐々に力を蓄えて行く。
 夫の死後はまだ幼い王子の後見人として、政治にも介入する。300人の美しい侍女を取りそろえた「遊撃騎兵隊(エスカドロン・ヴォラン)」を率いて政敵を骨抜きにしたり、各国の王室と王子王女を結婚させたり、王と共にフランス中を行脚し、威光を見せつけたり。
 対立するカトリックプロテスタントの間で宥和政策を取ろうとするが、ことはカトリーヌの思うようにはなかなか進まない。長男フランソワ二世は妻に夢中な上若くして死に、三男シャルル九世は父親の影を求めて新教派(ユグノー)のコリニィ提督を重用、可愛くてたまらない四男アンリは同性愛に走り、しかも妹であるマルグリッドとも関係を持つ非道ぶり。
 やがて起きる聖バルテルミーの大虐殺。三日三晩パリ中のプロテスタントユグノー)が殺され続け、セーヌ川は血で染まり、街には死体の山が積み上がる。…

 
 佐藤さんの作品で、女性が主人公というのは珍しいのではないかしらん。例えば今回にしても、両親の愛情が薄く、幼い頃他国での人質として幽閉生活を強いられたアンリ二世とか、フランス王にまで上り詰めながら弟に母親の愛情を占められ、臣下に父親を求めたシャルル九世とかを主人公に据えるのが、今までの作法だった気がする。父親にコンプレックスを持つ主人公、というのは十八番ですもんね。
 そのせいとは思いませんが、今回の話は「え、こんな所で終わるの??」っていう感じが凄くしました。いや、カトリーヌの最後まで書いてよ~;; どこまで史実なんだろう、自らはカトリックのお膝元で育ち、親戚にローマ教皇まで持ちながら、自分を押し込めてプロテスタントを許し、愛人の存在を認め、色仕掛け専用の侍女軍団まで作り上げる合理性。でも女を使い捨てにする男は許されない。「逆に女が男を手玉に取るのが許されるのは、相手を認めて、こちらも少なからぬものを賭けているからなのだ」の一文には、ちょっと成程、と思ってしまいました。でも自分の価値観を売ったしっぺ返しのように、子供達は不貞に走る訳ですが。…この人、幸せだったのかなぁ。
 ところで、表紙の女性は誰なんでしょう(笑)。カトリーヌって、太ってあまり美人ではないんでしたよね?