読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ブランコ乗りのサン=テクジュペリ 紅玉いづき著 角川書店 2013年

 ネタばれになってるかも、すみません;

 20世紀末に突如都市を襲った天災から数十年。震災復興のため、首都湾岸地域に巨大カジノが誘致された。その一角を、少女だけで形成されたサーカス団が占める。曲芸学校をトップで卒業したエリートのみが、偉大な文学者の名前を冠した演目を任せられる。

 ブランコ乗りのサン=テクジュペリこと片岡涙海(るう)が稽古中に怪我をした。動かない片足を前に、涙海は双子の妹・愛涙(える)に訴える。代わりに舞台に出て、空中ブランコに乗って、と。
 そっくりな顔立ち、体つき。身体能力も、涙海に付き合って練習していたから、勝るとも劣らない。だが所詮替え玉でしかない。自信が持てず縮こまる演技に、エクストラシートに座っていた男が囁きかける。「子供が身体を売っているのは、見るに堪えない」 やがて、愛涙が何者かに拉致される。 ‥『ブランコ乗りのサン=テクジュペリⅠ・Ⅱ』

 猛獣使いのカフカこと庄戸茉鈴は、涙海と曲芸学校で同期生。ただし、受験年齢上限ぎりぎりで受験したので、年は三歳違う。長らくあいていたカフカの座に就くため、両親のコネも財力も利用する。猛獣や毒蜘蛛もいる誰も寄りつかない飼育室に、何故か一人の少女が居着く。彼女の名は「パントマイムのチャペック」。 ‥『猛獣使いのカフカ

 誇り高い歌姫アンデルセンこと花庭つぼみ。何年も歌姫座に君臨する彼女は、誰よりサーカスを愛している。だから、誰かがサーカスを喰い物にしているのは許せない。チャペックの突然の引退、サン=テクジュペリの誘拐未遂。裏でサーカスが賭けの対象にされている、団長シェイクスピアも関係しているようだ。アンデルセンは、サーカス団を守ろうと決意する。 ‥『歌姫アンデルセン

 愛涙が恋をしている。幼い頃から「一緒であること」、なのに彼女を蹴落とすことを意識してきた涙海にはわかる。病室でこれまでの経緯を振り返る涙海に、見舞客が訪れる。愛涙は勿論、涙海がブランコに乗る夢に惜しみなく協力してきた母親や、歌姫アンデルセン、そして愛涙を助けた男が。 ‥『ブランコ乗りのサン=テクジュペリⅢ』


 この作家さん、こんなに桜庭一樹さんと似た雰囲気を持っていたっけ。で、どうしよう、私は近年の桜庭さんの作品よりこちらの語り口の方が好きだ。硬質で肌に合う。
 作者が意識していたかどうか、私はこの設定に、タガラヅカを連想しました。特に曲芸学校の背景はよく似てる気がします、受験の年齢制限とか二年制であることとか、トップを支える周囲のありようとか。ただ、陰湿な嫌がらせがあるかどうかは疑問ですが。プライドの高い少女たちが集まって、そんな自分の価値を貶めるようなことするとは思いにくいので。そこは「カジノ特区」に設立された少女サーカス団のフィクションとしておきましょう。
 腐敗、退廃の匂いを漂わせながら、それでも少女たちは潔癖な心根を持つ。孤高の彼女たちの持つ凛としたプライド。ただ、アンデルセンの歩く道は険しいかもなぁ。