読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

すべて真夜中の恋人たち 川上未映子著 講談社 2011年

 <真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。
それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思い出している。>
 入江冬子、34歳はフリー校閲者。人づきあいが苦手で孤独を当たり前のように生きてきた彼女の唯一といっていい趣味は、誕生日に真夜中のまちを散歩すること。友人といえるのは、仕事でつきあいのある大手出版社社員で校閲局勤務の石川聖。ふたりの共通点は、おない年で出身県が一緒であること。ただ、それだけ。冬子は、ある日カルチャーセンターで初老の男性と知り合う。高校の物理教師という、その男性の「今度は、光の話をしましょう」という言葉に惹かれ、冬子は彼がときを過ごす喫茶店へ向かうようになる。少しずつ、少しずつ、ふたりの距離は縮まってゆくかにみえた。彼に触れたいという思いが高まる冬子には、高校時代に刻みつけられたある身体の記憶があった――。           
                                           (講談社ホームページの粗筋より)


 爆笑問題太田光さんが以前TVで紹介していた作品。一緒に出演していたピース又吉さん、オードリー若林さん、Hi-Hiの上田さんたち全員が「これは面白かった」と口をそろえていたのが印象的で、予約を入れました。
 人が簡単にできること、ハードルとも思わないようなことを越えることができない主人公。カルチャークラブに行くことすら、ありったけの勇気を振り絞らないとできない。前務めていた会社での、仕事中お菓子の箱が回って来ない、というエピソードはリアリティありすぎてくらくらしました(いや、私はその経験はないですけど)。共感できる所は多々あったのですが、ただ、主人公がアルコールの力を借り始めると、ちょっとそれは眉を顰めてしまいました。…酔っ払いはあまり好きではないので;
 おそらく生まれて初めて好意を抱いた人に、傷つくことを恐れながらもおずおずと近付いて行く。でもこの主人公は「いいカッコしよう」とか思わないんですよね、そんな余裕はない。かえって多分無様にも思われるような行動しかできない。そのままでいればよかったかもしれないのに、でも最終的には借り物ながらもいわゆる人並みの恰好をして、普通と思われるデートらしきものをして、背伸びをしている自覚は十分あるんだけど、でもそれは打ち砕かれる。
 主人公の友達みたいな感じで、仕事をばりばりこなす女性が二人出て来るんですが、これがどちらも結構痛い感じがしましたねぇ。聖は聖で相手をやり込める性格で、でも本当に器用な人なら、こんなきついいい方しない。相手に威圧感や不快感を与えることなく、でも自分の主張をすっと通してしまう。彼女を主人公に紹介した編集者も編集者で、こんな波風立てる陰口じみたものを、わざわざ言うのもどんなものかと。でも現実にいそうなんだよなぁ(苦笑;)。
 結局静かに、元の生活に戻る冬子。思い出を胸にしまいこみながら。きれいな話、なのかなぁ。何だか哀しいような。