読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

悪の教典 上下 貴志裕介著 文藝春秋 2010年

 「このミステリーがすごい!」2011年第一位作品。
 ネタばれあります、すみません;

 「俺には感情がないらしいんだ」。
 生徒からの絶大な人気を誇り、職員室やPTAの間でも信頼の厚い教師 蓮実聖司、通称ハスミン。好青年の貌をもち、高いIQを誇る蓮実の正体は、決定的に他者への共感能力に欠けた反社会性人格障害サイコパス)だった――。
 暴力生徒やモンスターペアレント、集団カンニングに淫行教師。現代の学校が抱える病理を自らも内包する私立学園に起きた惨劇とは――。
                                   (紹介文より)

 映画化もされた話題作。そういえば貴志さん、自作の映像化率高いなぁ。私は映画は見てないのですが、とりあえずハスミンののビジュアルは伊藤英明さんで浮かびました。
 なるほど、これは嫌な話だ。主人公に感情移入できないのは勿論なんですが、じゃあ被害者側を「頑張れ!」って応援できるかというとそうでもないんですよね。その点が高見広春著『バトルロワイヤル』と違う所で。
 以前、うちの兄が『バトルロワイヤル』を読んだ後、「不快だ」と言っていたのをふと思い出しました。「この作者は、色々な死に方、殺し方を考えることを楽しんでる」。…実は今回、同じようなことを、私はこの作品に感じました。不快なのに、結局最後まで読みましたけど。
 貴志さんの作品おなじみ、「知識をもりだくさん詰め込みました」な作風は相変わらず。異形なものに対する愛着も。共感能力に欠けた主人公は、困難なことがあった時に取る手段について、人より選択肢が多いんだとか言いますが、結局排除に走るだけで、選択自体は狭まっているような。しかもそれが全部自分の欲望発進なんだもんなぁ。この主人公、お金だの女性だの、手に入れた後それで何がしたかったんだろう。手に入れることが目的だったのかしら。
 何か、気になる所は色々あるんですよね。夏目雄一郎と片桐怜花、せっかく助かったのにいきなり直接対決に向かうなんてどうかと思うなぁ。まず警察に話して周りから固めようよ、とか全体的に女生徒はただ可愛いだけで主体性のない子ばっかりだったなぁ、とか。途中で排除された暴力生徒が、実は学校に戻っていて――な展開も、何の意味もなかったし、というか「この生徒がきっと大きな役目を果たすのね!」とも読んでて思わなかった、ってのも問題で(苦笑;)。そうそう、カラスのムニンは結局何のためにあんなに思わせぶりに途中何度も出てたのかな。
 今さらですが、賛否両論に別れたのも分かる作品でした。