読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ディーセント・ワーク・ガーディアン 沢村凜著 双葉社 2012年

 労働基準監督官の活動を描いた連作短編集。
 ネタばれあります、すみません;

第一話 転落の背景
 三村全は黒鹿労働基準監督署の第2方面主任監督官。妻は仕事の関係で東京に子連れ赴任しているため、黒鹿の自宅で一人暮らしをしている。
 建築足場の三階部分から、作業員が一人、転落して死んだ。純粋に本人の不注意に見える事故だが、同僚の作業員の証言があまりにも合いすぎる。不景気に苦しむ会社で、皆で何かを隠しているのではないか。聞きとりをしているうち、三村の目に真実が見えてくる。

第二話 妻からの電話
 夫の過労死を心配する妻から電話が入った。夫の務める黒鹿プリンティング・サービスは、三週間前三村が臨検監督に赴いたばかり。問題になるほどの残業はなかった筈なのに、残業を理由に家に帰って来ない夫には、女がいるのではないか。だが、その実、夫の言に虚偽はなく、三村はふとしたことから妻の真意を知ることになる。 

第三話 友の頼み事
 友人の清田刑事が、三村に泣き付いて来た。曰く、コンビニ強盗の犯人のアリバイが崩せない、三村に謎を解いて欲しいと言う。その日、容疑者の派遣職員は製菓会社の工場で働いていた、IDカードで時間を管理されていて、工場外に出た形跡はない。だが、三村は工場長が外出していることに疑問を抱く。蒸煮釜の周りが妙に奇麗になっていることにも。

第四話 部下の迷い
 三村の部下・加茂は感情豊かで人に肩入れし易い。長所でもあるが欠点でもあるその性格が仇となって、加茂は思い悩んでいる様子。三村が水を向けると、加茂は今担当している総菜屋の問題点を上げ始めた。情に絡め取られて思い切れない加茂の様子に、三村は違う方面からのアプローチを示唆する。総菜屋のおかみは、結構強かな女性だった。
 
第五話 フェールセーフの穴
 機械工場の産業用ロボットのすぐ傍で、社員が首を絞められ死んでいた。ロボットを囲んだ防護柵の中に入れば安全装置が働いてロボットの動きは止まる筈、なのにロボットはそのまま動いていたらしい。犯人もその中には入れない筈の一種の密室状態に、刑事清田は三村を呼び出す。安全装置に穴はあるのか、それならその対策を講じるために三村も調査の必要がある。だが見つからない欠陥に、三村は別の可能性を思いつく。

第六話 明日への光景
 ある日、離れて暮らす妻の由香里から妊娠を告げられた。そして、別れを。とにかく仕事に没頭する三村に、分限審議会の開催が告げられる。突然の罷免勧告にも等しい行為、だが三村にはそんなことをされる理由にまるで心当たりがない。三村を陥れる人物として思い当ったのは、以前三村の指導によって会社が潰れたと逆恨みしている若き経営者・砂子虹大。再び成功した砂子は、新しく着任した厚生労働大臣とのパイプラインも使って、彼の醜聞をでっち上げ、復讐を果たすつもりらしい。清田も動き、新聞記者の友人もアドバイスを洩らした。三村さえ辞表を出せば手っ取り早い、という上司達の動きに、三村は大きく揺さぶられる。…


 凄い所に目を着けたなぁ、というのが第一印象。
 話としては面白かったし、成程崇高だわ、とも思いながら、でもやっぱりどうなんだろう、この労働基準監督官の仕事はいたちごっこなんだろうな、と妙に乗り切れませんでした。というのは、うちの会社の実情もあったので。
 私の勤める会社にも数年前指導が入ったらしくてですね、勤務時間が8時半から5時までが、9時から5時45分まで、遅くにずれまして。残業時間を減らすことが目的なのは分かるんですが、社員に不評だったのは、それでも5時に帰ろうと思えば帰れたのに、それすらできなくなってしまったということ。この45分は、子どもを保育園に預けている人とか家庭の主婦だとかには大きかったですねぇ。結局数字を誤魔化すことで解決しようとする上層部しかいない場合は、デメリットの方が大きいとしか感じられなかったりするもんなぁ。
 この話はシリーズ化するのかしら。子供へのメッセージは伝わったみたいだけど、奥さんとの別れ話は多分このまま進みそうで、その続きは気になるし。何しろ、ネタはまだまだありそうですもんね。