読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ヒア・カムズ・ザ・サン 有川浩著 新潮社 2011年

 ネタばれになってるかな、すみません;

 古川真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人の記憶が見えた。
 強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。
 ある日、真也は同僚の大場カオルとともに成田空港へ行く。カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。 
 しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた……。

 この設定を元に書き上げた中編二本収録。演劇集団キャラメルボックスとのコラボ企画。

 ヒア・カムズ・ザ・サン
 自分にある「気づき」の能力を仕事に使っていることに、後ろめたさを持っている真也。彼には同僚の、真っ直ぐ担当作家の懐に飛び込んで行くカオルが眩しくて仕方がない。
 真也も所属する文芸雑誌『ポラリス』の企画で、ハリウッドのシリーズ映画『ダブル・マインド』を取り上げることになった。編集長曰く、わが社にはこの洋画のスタッフと伝手がある、独占インタビューが取れるとか。メイン脚本家「HAL」はカオルの父親だった。
 幼い頃両親が離婚して以来20年も会っていない、今さらどんな顔して会っていいかわからない、と自分の感情が整理できないまま、カオルは真也と共に成田空港へ。カオルの母親も一緒にHALを迎え、そのまま出版社へ。本当に彼は「HAL」なのかというかなり失礼な疑惑も持ち上がりながらも、インタビューは無事済んだ。そして、二人きりになった時。
 真也は「HAL」に切り出す。あなたは一体誰なんですか、と。…

 ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel
 もうそろそろプロポーズする頃合いだな、とタイミングを計っていた頃。真也はカオルから、実は自分にはアメリカに行ったきり、20年もご無沙汰だった父親がいる、と打ち明けられた。
 自分はヒットメーカーの脚本家だと大言壮語を吐くばかり、一向にうだつが上がらないのにすぐばれる嘘をついて見栄を張り周囲をうんざりさせている、とカオルの父親に対する評価は散々なもの。実際会ってみて、真也もカオルの気持ちが分かった。まるで子供の吐く嘘を聞いているようでいたたまれない。
 それでもカオルに会いたいという父親の気持ちは本物だった。日本滞在中に、どうにかカオルに折れてやってくれと頼む真也。周囲の誰からもそれを要求されて、気持ちがおさまらないカオル。二人の間を取りなすため、真也は奔走する。…


 演劇集団キャラメルボックスの芝居は一時期、結構よく見に行ってました。この頃はご無沙汰してるんですけど。
 1本目は有川さんのオリジナルで、2本目は演劇集団キャラメルボックスの上演を見て、インスパイアされて書き上げた作品らしいんですが、本当、2本目はキャラメルボックスの色が所々に見える。
 で、1本目で特に思ったんですけど、有川さんってこんな漫画的な構成というか書き方してましたっけ?? 
くわっ、と表情を変えて振り向くカオルや、HALの回想シーンの入り方とか、コマ割りまで目に浮かぶ感じ。その後文章を重ねて重ねて盛り上がる表現は有川さんのものなんですけど。「HAL」の真相には泣きそうでした。通勤電車の中でうるうる来て、これはいかん、と持ちこたえましたよ(笑)。でも「分かるわ~」としみじみ思ったのは2本目、Parallelの方でした。
 カオルの気持ちがねぇ。何でこっちが大人になってやらなあかんねん、ってことが、結構やっぱりあってねぇ(苦笑;)。「手っ取り早い」「折れてくれ」「堪えてくれ」が通用したら、もうそれはゴネ得じゃん、とか思ってしまうんですよねぇ。そこを汲んで行動してくれる真也に巡り会えていることが、羨ましい限りです。真也、いいオトコだよ、全く(笑)。
 書き直しを要求した作家に対する結果が、1本目と2本目で違うものになってるんですね。そこがカオルの誠実さの顕れのような。
 しかし、昔喧嘩別れした相手を赤の他人が勝手に呼び出しとくとか、普通するかなぁ。それこそ機嫌損ねて取材拒否とかされそうな気がするんですが。