読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

キケン 有川浩著 新潮社 2010年

 連作短編集。
 ネタばれになってるかな、すみません;

 【キケン】成南電気工科大学機械制御研究部の略称。これはその伝説的黄金時代を描いた物語である。

 第1話 部長・上野直也という男
 「学内一の快適空間」という謳い文句に興味を引かれていると、新入生の元山高彦と池谷悟は二回生の上野直也に機械制御研究部、通称「キケン」に引っ張り込まれてしまった。成南の爆弾魔ユナ・ボマーと呼ばれ、こと火薬に関する限り常識どころか法律も気にしない上野直也部長、その上野をも抑えられる大魔神・大神宏明副部長の元、新入生の勧誘が始まる。散々仮入部させまくった挙句、クラブ説明会で行ったパフォーマンスは『遠隔操作式爆弾実験装置』だった。

 第2話 副部長・大神宏明の悲劇
 名だたるお嬢様学校・白蘭女子大の学園祭で、大神は一人の女の子に見染められた。校門前でのラブレター手渡しから始まった恋は順調すぎるほど順調に進むかと思われたが、そこにはやはりお嬢様ゆえの意識の違いが明らかになる。

 第3話 三倍にしろ!―前編―
 学園祭名物、【機研】主催模擬店『らぁめんキケン』。毎年90万もの売り上げをあげるその秘密は、人件費や地代がないこと、学祭中に一度は出る『奇跡の味』が半ば伝説化していること。今年は【機研】と因縁のあるPC研究会が同じラーメン屋を出すと判って、上野のテンションは上がりまくり。当然対抗意識のツケは一年生に回って来るのだが、「お店の子」元山がそれに応える鶏ガラスープを作りだす。

 第4話 三倍にしろ!―後編―
 学園祭準備日から、『らぁめんキケン』は大盛況。初日から出た『奇跡の味』、今年から始めた出前、学園祭に呼んだアイドルがライブで宣伝してくれたこと、全てがあいまって殺人的な忙しさ。完敗を決め込んだPC研は、司令塔を担っていた元山を拉致に走る。だが上野が黙ってはいなかった。

 第5話 勝たんまでも負けん!
 元山・池谷二回生。
 曽我部教授の強要で、県主宰のロボット相撲大会への参加を決められた【機研】。生ぬるいルールに文句を言いつつ、でもやるからには大学の名誉にかけて勝たねばならない。決勝相手は金に物を言わせた力押しの「ゴールドライター号」。こちらは操縦者に池谷を据え、冷静な試合運びと華麗なテクニックを身上に「サトルくん1号」で迎え撃つ。

 最終話 落ち着け。俺たちは今、
 元山・池谷三回生。
 ボールペンのプラ軸を銃身に、遊びで作った空気銃が、【機研】で密かにブームになった。競争のように凝って行く手順、上がって行く威力。精度まで求めるようになって、元山ははたと我に帰る。待て、俺たちは今、…

 数年振りに妻と共に、学園祭を訪れる元山。『らぁめんキケン』はあの頃のレシピを忠実に守って今も大盛況、そして連絡所になっている教室には黒板にメッセージの走り書き。…


 何だかね、有川さんの後書きに一番じんと来てしまいましたよ。そう、男の子だけの世界ってどうしてあんなに楽しそうなんだろう。男の人も、女の子だけの世界を眩しく見てくれるもんなんだろうか。
 細かいつっこみ所は相変わらず。…あと妙に説教臭くて決めつけっぽい所がある気がするのが、私が有川さんの作品に最後まで乗りきれない原因なんですが、これは私の僻みっぽい性格から来てるんでしょうね(苦笑;)。
 火薬に圧力掛けるってどうやって?? これはこの間、岡田斗司夫さんのトークライブで出たお題でもあるのでちょっと覚えてたのですが、素人がやろうと思ったら物凄い胆力を要求されるチキンレースになるらしいんですけど。…そのレースに一人挑戦して一人勝ったの?? 上野凄ぇ。
 大神くんのお相手の女の子は、天真爛漫というか、警戒心なさすぎというか…。あれは誤解しちゃうなぁ、災難だったね(笑)。
 せっかく作ったロボットを、惜しげもなく壊してしまう展開はちょっと嫌でしたね~。無人探査機「はやぶさ」の例を引くまでもなく、手を掛けた無生物に愛着を持つ感覚は、誰にもあると思うので。
 四人以外のキャラクターがいかにも「その他大勢」になってしまったのが少々残念。ラストの黒板にしても、あれ上野・大神・池谷の三人は同時に行ってるよなぁ、って内容で「ん?」って思ったし。文字も、工学系男子の字じゃない感じでしたね。…そこまで要求するのは酷かな(笑)。
 模擬店で立ち働く後輩たちを見る元山には、ちょっと不覚にも泣きそうになってしまいました。でもね、やっぱり惜しいの。こう言うゆさぶりは、恩田さんの方が上手い。『六番目の小夜子』での最後、桜吹雪が舞い散るシーンは、こんなに饒舌じゃないのに、それまでの思い出が溢れて来たもの。
 装丁も含めて、楽しい作品であることには間違いないです。徒花さん、こんな絵を描く人だったんだなぁ。