読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

金色の獣、彼方に向かう 恒川光太郎著 双葉社 2011年

 連作短編集、かな。

 異神千夜
 草庵を訪れた男は、問われるまま自分の身の上を話し始める。
 元々対馬に産まれたが、南宋の商人に見込まれて商船に乗るようになったこと、そのうち南宋は元に滅ぼされ、捕虜となった自分は元寇密偵として博多に潜伏するようになったこと。その時行動を共にした仲間の一人に、鈴華と言う名の、元に滅ぼされた一族の女がいたこと。元寇は結局は失敗に終わったが、自分達は日本に取り残され、そして鈴華の言動が自分達を操るようになっていったこと。男は鈴華を殺すことが、自分の義務だと思うようになっていた。

 風天孔参り
 樹海の際を通る国道沿いのレストランで、店主は一人の女性客と出会う。三日山に迷い込んだ彼女は、そこで風天孔参りをする一団に出会ったと言う。彼女は店を手伝うと言い、いつしか恋仲になっていた二人。だが、やがて彼女は店を出て行く。そして、風天孔に飛び込んでいく。

 森の神、夢に還る
 ナツコという女の子に憑いて、「私」サクラは森の中から都会へ出た。孤独だけれど希望に満ちた日々、だがバイト仲間の裏切りにも似た死の後、ナツコは一人の辻占と出会う。サクラとその男には因縁があり、サクラはナツコから離れて男に取付き、元いた森に帰る。

 金色の獣、彼方に向かう
 大輝はある日、鼬によく似た金色の獣を拾う。ルークと名付けて飼っているうち、大輝はルークの視界で景色を見る瞬間を得られるようになっていく。だが、ルークは千絵に浚われてしまった。義理の父親に暴力を振るわれ、思わず殺してしまった千絵。虚言癖のある彼女は、自分の本当の父親は鼬行者で、ルークは父親の元へ案内してくれる存在だと思っていた。…


 このお話は一応全部繋がってると見ていいんですよね? 中国から渡ってきた異神が、時代を経て日本の山中と言うか森の中で、細々と、でも脈々と生きている。…でも風天孔が異質かな。
 『異神千夜』の元寇のエピソードは史実なのかな。船べりに、生きたまま手に穴をあけた女を縄で吊るした、って。…なんというか、こういう侵略戦争で、女性が凌辱されるとかいう話はまぁ聞くけれど、そんな風に捕虜の女を使う、と言うのは聞いたことが無くて、うわぁ、と眉間にシワが寄ってしまいました。食糧を隠して撤退を促した、とか。…そういえばこの辺りの知識は全然ないんだよなぁ。
 いつの時代か物語の舞台背景がはっきり書かれているのが珍しいですよね。異世界ではなく、日常の延長にある世界。ちょっと毛色が変わってる気がしました。