読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ホラー・ミステリー・アンソロジー 魍魎回廊 宇佐美まこと/小野不由美/京極夏彦/高橋克彦/都筑道夫/津原泰水/道尾秀介著 千街晶之編 朝日新聞出版 2022年

 アンソロジー集。ネタばれあります、すみません;

 水族 宇佐美まこと
 水族館に佇む「私」麻里。結婚の決まっていた恋人卓哉の事故を目の前で見てしまった。麻里は、水族館に勤める亮が、卓哉の車に細工したのではないかと疑っている。裕福な故に大らかで無神経な卓哉は、幼馴染みで小さな工場の跡取りだった亮の神経を逆なでするような発言をしていたから。

 雨の鈴 小野不由美
 雨の日に、喪服姿の女を見かける。だんだん家に近づいてくるようだ。友人から何気なくその話をされて、千絵は蒼褪める。千絵は以前、その女の訪問を受けた直後、父と母を亡くしていた。

 鬼一口 京極夏彦
 薫紫亭の主人と「鬼」について語らう鈴木敬太郎。鬼とは普通人には出来ないことをするモノ、という講釈を聞いて、思い起こすのはビルマ戦線での出来事。薫紫亭から帰宅する途中、写真館でその家の親子の喧嘩を目にした鈴木は、幼い頃自分の母親の不貞を、悪気なく口にしてしまった過去を思い出した。鬼にでも喰われてしまえ、と父に罵られたことも。

 眠らない少女 高橋克彦
 幼い娘は不眠症で、夜絵本を読んでくれとせがむ。妻が読む『あまのじゃく』の話を聞いて、「私」は田舎で聞いた『人喰いあまんじゃく』を思い出す。その話は、妻の記憶も呼び起こした。飢饉の時、瓜子姫が死人を食べていた顛末を。

 三つ目達磨 都筑道夫
 トラベルライターの雪崩連太郎は、三つ目の達磨の達磨市があると聞いて、米子市の近くの夜須江という町を訪ねた。寺に五年毎に達磨を納め直すその風習は、昔 三つ目の子供が凶事を予言した、という言われが元になっているらしい。目を入れるのは五の倍数の年齢の処女という決まり、その取材の後、雪崩は今回担当の神谷静子に誘いを受けた。達磨職人や住職との納品の儀式の後、雪崩は達磨職人の工房を訪ねる。

 カルキノス 津原泰水
 蟹の苦手な「おれ」猿渡に対し、友人の怪奇作家 通称「伯爵」は、以前食べた旭蟹が美味くて忘れられないという。その亜種である紅蟹をご馳走すると言われて、伯爵と猿渡は静岡の映画祭に出席した。紅蟹の美味を思う存分満喫したその夜、主催者の惨殺死体がガレージで見つかる。犯人は仲の悪かった夫人か、秘書か。猿渡は夜中、窓から覗いてくる巨人を目撃していた。

 冬の鬼 道尾秀介
 火事ですべてを失って以来、「私」に求婚していた男たちはみんな冷たくなった。変わらず愛してくれたSの故郷で、私はSと暮らすことになった。火事で残った唯一の品 達磨と共に。やがて私は、Sに焼け爛れた自分の顔を見られることを苦痛に感じ始める。…

 これは小野不由美さんの名前につられて借りたアンソロジー。小野さんの作品は読んでましたね、案の定(苦笑;)。改めて読むと、入り組んだ路地の様子が私の中で再現できず; これは先日読み返した『風の海 迷宮の岸』でも思ったんでした。初読当時はお話しの行く末が気になってこの辺りのことは気にならなかったんだろうなぁ、「とにかくややこしいのね」で折り合いをつけて。
 あと、高橋克彦さんの作品も読んでました、高橋さんは一時期ハマって読みまくったので。それにしても二十年以上経った上での再読なのに(下手すると三十年か?;)「あ、これ覚えてる」と思い出した描写がいくつもあって、私の中に強烈な印象を残してたんだな、と感じ入りました。
 京極さんのは何だか話があちこちに飛んだ感じ、この取り留めのなさ、連想を楽しむべきなんだろうなぁ。津原さんの『カルキノス』はもうバカミスと呼んでもいいのでは??(笑)。
 都築さんの『三つ目達磨』は、何だか時代を感じましたね~。この処女に拘る感じ、『BASTARD!』を今アニメで見直して、これを重要視する価値観だったんだよなぁと思い至る、妙に共通する見識に感慨に耽ってしまいました(苦笑;)。結末はこれ、ホラーなのかSFなのか、雪崩さん、後々罪悪感に悩まされなきゃいいけど。
 『冬の鬼』は何だか『春琴抄』を連想しました。全部読んでから「あれ?」って改めて後ろから読み返す、構成の妙ですね。緻密さに舌を巻きました。