読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

あんじゅう 三島屋変調百物語事続  宮部みゆき著  中央公論新社  2010年

 『おそろし』続編。連作短編集。
 ネタばれになってます、すみません;

 第一話 逃げ水
 三島屋の黒白の間に、とある店の番頭だと名乗る男が丁稚を一人連れて来た。丁稚・平太の出身地は上州北の山のなか、彼は禁忌をを侵してほこらに封じ込められていた「お旱さん」を解き放ってしまったと言う。昔は鉄砲水から麓の村を救ってきた「お旱さん」は今では災厄でしかなくなっていた。以来、お旱さんは彼の中に棲みつき、彼の傍からはあらゆる水が逃げると言う。
 おちかは平太を預かって様子を見る。平太を温かく迎えた三島屋に、水が逃げる被害は起こらなかった。おちか達はお旱さんに敬意を払い、お旱さんも我慢をしてくれているようだ。三島屋の落ち着きを見て、また件の番頭が平太を引き取りに来る。だが、お旱さんの故郷の村への、その関係にあるお店への怒りは治まっていなかった。再び訪れたある意味滑稽な災厄に、三島屋の主人・伊兵衛は平太の新たな奉公先を見つけて来る。

 第二話 藪から千本
 お隣の針問屋住吉屋の一人娘・お梅の、お嫁入りが決まったとか。当日、何かから隠れるように裏の木戸から輿入れした花嫁は、あばた面の別人が白無垢を纏ったものだった。
 後日、住吉屋のおかみ・お路が黒百の間を訪れてその経緯を語る。本家の兄夫婦に双子の娘が産まれたこと、以来仲良く過ごしていた姑との関係が悪化したこと。畜生腹だ、縁起が悪いと攻め嘆く姑は誰の説得も聞き入れず、その言葉は呪詛のように姑の死後も続いたこと。子供のできなかった妹夫婦が一人を引き取り、本家の娘・お花とまるっきり同様に育てていたこと。やがて、お花が夏風邪であっけなく逝ってしまう。バランスの崩れた両家の関係は、お花の行き人形を作るまで辿り着く。お花の受けられなかった幸せをお梅が受ける時、必ずお花の人形に針が立ち、お梅にも同じ場所が脹れあがると言う。災厄を逃れるため、住吉屋は疱瘡から生き延びた代わりあばたが残ってしまった娘・お勝を、厄払いとして雇い入れる。

 第三話 暗獣
 手習所で、平太が喧嘩をして帰って来た。相手は直太郎という転校生、死んだ父親に火付けの疑いがかかっている上、そのことを父の従弟夫婦に責められていて精神的に不安定になっている。直太郎の元の手習所の先生である若い浪人・青野利一郎が代わりに謝りにやって来て、そこでおちかは、火事になった屋敷の不思議を聞くことになる。
 もともとその屋敷は長く空き家で、幽霊の噂も立つ中、利一郎の師匠夫婦が隠居先として手に入れた。明るく合理的な夫妻は、そこで〈くろすけ〉と名付けた生き物と遭遇する。その不思議な生き物との楽しい暮らし、でもやがて訪れる覚悟の別れ。その哀しさが、師匠夫婦に火事の原因を推測させた。
 おちかは生なかには信じられないようなその話を、直太郎にするよう利一郎に進める。

 第四話 吼える仏
 利一郎の紹介で、行然と名乗る偽坊主が現れた。お勝も黒白の間に招き入れて、行然の若い日の話を聞く。
 偶然行き着いた山深い小さな村は、山の恵み豊かな里だった。その恵みを奪われないよう、他所者を寄せ付けず、うちうちだけでこっそり住んでいた。だが、他所者に豊かさを誇ろうとする若者が出てくる。本人に悪気はなく、しかしその行為は村を危機に陥れかねない。寺の和尚が中心となって、古いしきたりと称して若者夫婦を山小屋に閉じ込める。やがて身重の妻が死に、若者は薪に仏の絵を描き出す。御利益ありと噂されはじめた薪の仏は、寺とはまた別の勢力を生み出し、大きなうねりへと姿を変えて行く。そしてまた、その若者も。

 変調百物語事続
 三島屋のその後、黒白の間で三島屋の様子を探っていた男の顛末と、その時の行然や利一郎の働きを描いた後日譚。

 
 面白かったことは面白かった、んですが。
 何だか虚と実の混じり具合がいつもの宮部さんの作品とは違ってる感じで、まずそこに戸惑いました。
 人の怨念が云々とか、幽霊とかは大丈夫、想定内。だから、第二話とかは落ち着いて読めたんですが、山の神さまとか蛇の化身とかが出て来ると、「…あれ、そこまで含めるの?」とちょっとまず、読んでるこちらの軌道修正が必要になりまして。いや、これはあくまで私の個人的な作業なんですけど。
 ですから、第三話なんかもうまさしく泣ける話なんですけど、こちらの調整のせいで泣けなかった。第四話も本当は怖い話なんですが、「そこまでになるのか」とこれもこちらの範疇を超えていた。
 あくまでこちら側の勝手な思い込みだったんですけどね、純粋に楽しめばよかった。残念な読み方をしてしまったなぁ。それでも、面白かったんですから。