読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続 宮部みゆき著 毎日新聞出版 2019年

 『三島屋変調百物語』シリーズ6冊目。
 ネタばれあります、すみません;

第一話 泣きぼくろ
 おちかに代わり、変わり百物語を聞くことになった富次郎に、口入屋 灯庵が周旋したのは幼馴染みの八太郎だった。
 かつて大所帯で豆腐屋を営んでいた八太郎の家は、何故畳むことになったのか。長兄嫁さん、次兄嫁さんに次いで長姉ちゃんに憑いた泣きぼくろは、とんでもないふしだらを引き起こしていた。

第二話 姑の墓
 桜の頃、呉服屋のおかみが語る。
 出身地、山間の桜が見事な山里で、生家はお蚕を生業としていた。兄が城下の豪商から嫁を迎えたが、これがとんでもない跳ねっ返りで、なかなか婚家に馴染もうとしない。格下という引け目も手伝ってなかなか窘められない兄や父に代わり、叔母や母が心を尽くして説得し、漸く心を開いてきた矢先、嫁はとんでもないことを言い出す。山上にある桜の季節の墓参りに参加したい、と。おかみの生家には、女は桜の季節、山に登ってはならないという決まりがあった。  

第三話 同行二人
 壮年の飛脚が語る。
 火消しの見習いから飛脚問屋にスカウトされた亀一は、信用を積み上げて三十で女房を貰った。娘に恵まれ、周囲の有難さにも気が付き、漸く親孝行もできるかという矢先、両親も女房娘も疫病に罹って死んでしまう。ただただひたすら仕事に没頭し走る日々、箱根峠の下り際の茶屋から、亀一は男が付いてくるのを感じる。しかも自分が泊まった宿で、必ず小火が起きる。よくよく見れば、男には顔がなかった。話を聞いた取次所の支配人は、その茶屋までのっぺら男を連れて帰ってやれ、という。

第四話 黒武御神火御殿
 質屋「二葉屋」の女中が、三島屋に見て貰いたい品がある、と印半天を預けて来た。背中に隠すように縫い付けてあった当て布を解いてみると、そこにはびっしりとひらがなが記されている。貸本屋「瓢箪古堂」の勘一は、その文言が耶蘇教に関連する唄だと看破、富次郎に「関わりになるな」と忠告する。印半天を女中に返そう、と決めた頃、富次郎を語り手が訪ねてきた。
 身なりはよいが、酷い火傷の痕、潰れた喉に白髪の四十路前の男。若い頃実家の裕福をいいことに、散々博打に耽って逃れられなかったと語る男は、二葉屋の女中と共に神隠しにあったことがある、という。そこで酒毒に溺れ 娘を売り飛ばした船大工の爺さんと、姦通を犯した薬種屋の番頭、強欲な地主の姑、お侍さんと共に、広い屋敷に囚われ、「悔い改めよ」と一人ひとり不思議に殺されていった、と。
 紐解くと、侍は屋敷の主に心当たりがあるようだった。侍は男と女中に、共に奥座敷の襖絵、燃え盛る噴火口を切り捨てて脱出しよう、と提案する。…

 安定のシリーズ、変わらぬ面白さ。
 借りてきた時には分厚さにおっ、とたじろぎましたが、読み始めたら一気でしたね。
 聞き手がおちかさんから富次郎に代わって、色々不慣れな場面も見せつつ、でも持ち前の明るさ、優しさ、調子のよさで、相手の心に寄り添っていく。
 第二話『姑の墓』ではお蚕だの絹物太物だの、『あきない世傳』の補足のように読めたし、第三話『同行二人』の飛脚についてのあれこれは、初めて知ることばかりで面白かったです。「尻の形がよくなくって、乗馬に向いてない」って、そんなことあるのね~、鞍は庶民は使えなかったのかな。
 最終話でおちかさんがちらっと登場してくれたのは嬉しかったなぁ。幸せそうで何より。キリスト教の教えを、これほど簡潔に分かり易く読んだのは初めてかも。
 切なかったり、怖かったり、理不尽だったり。でも聞いて聞き捨て、あっけらかんと妙にしたたかで後味いいんだよなぁ。宮部さん、凄い。