読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ストーリー・セラー 有川浩著 新潮社 2010年

 女性作家を主人公にした、Side:A、Side:B 対となる中編二本収録。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 Side:A
 同じデザイン事務所に勤める彼女は、少し気になる存在だった。チャンスがあれば自分もデザインを、と言う意気込みもなく淡々と確実にアシスタント業をこなす。日常会話に少しお堅い言葉を使い、地味に堅実に暮らしているらしいのは持ってくる弁当を見れば分かる。具合の悪そうなのに気付いて早退を勧めたその日、彼女が忘れたUSBメモリには短編小説が書かれていた。
 取り戻そうと慌てて引き返して来た彼女を抑え、一気に読み終える。それほど面白かった小説を、彼女は捨てると言う。会社を辞めるとも。「読ませる」準備をしていない作品を読まれるのは、心を凌辱されたも同じ行為だと訴える彼女に、反論できる言葉はない。そのまま高熱に倒れた彼女を罪悪感たっぷりのまま看病して、許される筈はないと思いながらも謝って、それでも誠実に作品の感想を述べる彼に、彼女は徐々に心を開いて行く。彼は「読ませる」準備のできた小説を受け取り、彼女の一番の読者兼ファンになり、やがて彼女の夫になった。
 彼女に小説家になることを勧めたのは彼だった。彼女の才能を独占するのはあまりにも勿体なく思えたから。果たして彼女は作家デビューを遂げて、みるみる売れっ子になって行く。だがそれは思わぬ敵を掘り起こした。大学時代、同じ文芸サークルに入っていたライター達がこぞって彼女を中傷した。その騒ぎが収まったと思いきや、今度は親戚内で厄介事が起きる。彼女が体を張ってカタを着けて、そして彼女は心を病んだ。命を削ってしまうほどに。

 Side:B
 妙にガードの固い職場の同僚は、彼女の作品のファンだった。彼が屋上で泣いていた理由は彼女が書いた本が原因だった。思わず自分の正体をばらし、二人のつき合いは始まった。
 夫になった彼は彼女を甘やかしてくれた、何しろ彼は彼女の作品の一番のファンだから。あまりにも居心地のいい生活は、彼が交通事故にあうその日まで続いた。事故自体は大したことはなかったが、検査で膵臓に腫瘍が見つかった。
 治療の日々が始まった。完治の見込みはあまりにも薄い状況、でも彼女は諦めない。神様なんて認めない、私が書いたお話で、彼の人生を覆してみせる。物語の中で私は彼を殺す、でも現実では生き延びる。私のために、あの人は生きなければならない。あたしは、この物語を売って逆夢を起こしに行くのだ。…

 捲ってすぐのページに「何だ、その安いSF映画みたいな設定は。」の言葉。  
 …何でここで予防線引いちゃうかな、この人は。有川浩の話を読もう、って読者はそこらへんはもう最初から目瞑ってる、ってのに(苦笑;)。
 いやもう、一気読みでした。止まらなかった。
 とか言いながら、Side:Aが終わってすぐに明かされる作中作っぷりに、ちょっと心が冷めたりしたんですけどね。結果的に、Side:Aは前振りだった訳ですね。
 有川さん、えらい話書きましたね~。旦那さんへの物凄いラブレターだ。
 こんな話を書く以上、個々のエピソードは元ネタがあったのかな、と邪推してしまうのは仕方のないことで(←こらこら;)。出版社からの無理な注文とかカ○カワのことかなとか(あそこの作家さんやイラストレイターさんって、アニメ化とか決まったら「大丈夫??」って量の本出すもんなぁ)、夜中謝りに来ると言った若いお嬢さんの担当さんって、幻○舎のプリンセスメイカーさんかな、とか。ご両親とあまり反りがあわないのかな、そう言えば親と円満な関係を築いてる作品って少ないな、とか。
 実は、読んでいて新井素子さんの作品を連想しました。あの人も一時期、自分の身を削って書いてないか?って作品があったもので。作家って因果な商売だなぁ。