読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

竜が最後に帰る場所 恒川光太郎著 講談社 2010年

 短編集。
 ネタばれあります、すみません;

 風を放つ
 大学生の頃、印刷会社でバイトをしていた。その時知り合った社員に携帯番号を教えたら、後日、その彼女だと言う女から電話がかかってきた。蓮っ葉で無遠慮で、でも憎み切れない可愛らしさを持った彼女。偏執的なしつこさで電話をかけて来る。自分は精霊の入った小瓶を持っていて、人を呪い殺せるのだと言う。最後に話したのは、彼女と会う約束をした時だった。初めからすっぽかすための約束、騙すための約束。その日から海外旅行に出た自分は、数年後、苦味を伴ってその約束を思い出す。

 迷走のオルネラ
 宗岡が初めて家を訪れたのは、クニミツが10歳の時だった。母の再婚相手として現れた宗岡は、徐々に本性を現し始めた。些細なことを切っ掛けにして暴力のスイッチが入る。母親が別れ話を切り出してもしつこくつきまとう。そしてとうとう、宗岡は母親を殺してしまった。
 クニミツは伯父一家に預けられ、そこで育つ。愛情を注いで貰い、何不自由なく暮らしたものの、心底には宗岡が棲みついていた。高校時代は体を鍛えて彼女に嫌がられ、大学は医学部に進学し、宗岡の元の妻にも会う。その娘が漫画家となり、その作品『月猫』を発表して数年後、宗岡が刑期を終えて出所して来る。クニミツは密かに立てていた計画を実行する。

 夜行の冬
 ある冬の夜、ぼくは鈴の音を聞いた。その音に誘われるまま、「ぼく」は6、7人の仲間と共に一晩中歩き続ける。朝になって着いたのは今まで住んでいたのと同じ町、でもどこかが違っていた。どこに留まっても構わない≪夜行≫。でもぼくは冬の間、導かれるまま毎晩歩き続けた。

 鸚鵡幻想曲
 アサノと名乗る青年は語る。この世には「偽装集合体」がある、と。一見何の変哲もないポストや自転車やお地蔵さまが、実は全く別の物から構成されていることがある、と。それはテントウ虫だったりスズメバチだったり、灰と砂だったり。それを自分は解放することができて、そして宏は解放されて二十羽の鸚鵡になった。
 鸚鵡は南へ旅を続ける。宏としての記憶を持ったまま、とある南の島で暮らし始める。

 ゴロンド
 ゴロンドは五千匹の兄弟と、水中で生まれた。小さな泥鰌にも似た姿で、食べて食べられて逃げて隠れて、みるみる大きくなった。やがて生えて来た足を頼りに、ゴロンドは陸に上がる。そこで縄張り争いに加わりながらも、心は外へと向かっていく。池から離れて岩山へ、やがてゴロンドは母親・シンを中心とする仲間と巡りあう。ますます高まる知能、幸せな日々。三年が過ぎた時、ゴロンドの背中には翼が生えていた、巣立ちの時が来た、とシンは言う。<竜が最後に帰る場所>を目指せ、と。…

 そうか、竜って両生類だったのか。…ではなく。
 好きだな~。
 連想したのは昔懐かしい読み切り漫画。20年前のウィングスやLaLaに載っていたような、SFやファンタジーが少し入った少女漫画。『迷走のオルネラ』に出て来る漫画なんて、まさしくそんな感じでした。
 この静かで乾いた雰囲気、好みだとか言いようがない。懐かしいなぁ。