読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

水底フェスタ 辻村深月著 文藝春秋 2011年

 辻村深月が描く、一生に一度の恋。…だそうで。
 ネタばれあります、すみません;

 睦ッ代村の村興し企画「ムツシロ・ロック・フェスティバル」で、高校二年生の湧谷広海は織場由貴美と出会う。村も母親も見捨てて、東京でモデルとなった由貴美。睦ッ代村の世界の狭さ、窮屈さに息が詰まっていた広海は、由貴美に急速に惹かれて行く。だが、由貴美が広海に近付いたのには理由があった。
 旧弊な村の中で、彼女の母親は外から嫁いできた「余所者」だった。村から虐げられ続けた彼女の母は、最後は自殺したのだと言う。それでも母親がしがみついていたのは村長選挙の時にばら撒かれる金と、現村長である広海の父親との愛人関係だったらしい。
 睦ッ代村の選挙不正を暴いて母親の復讐を果たす、と由貴美は言う。息子に理解があるふりをしながらも束縛欲が見え隠れする薄っぺらな母親、その母親に認められた幼なじみ兼いいなずけのような立ち位置にある門音、門音に恋する同級生・市村。村を見下す広海にとって、父親は尊敬できるほとんど唯一の存在だった。父親の潔白を信じて、広海は由貴美への協力を約束する。
 由貴美の言うことを真に受けるなと言う従兄の光広は中学の頃由貴美と付き合っていたらしいし、日馬建設の末息子で東京で問題を起こして村預かりになった日馬達哉は、何故か会ってもいない由貴美に拘りをもっているようだ。かつての村興し事業の一環、ダム建設や採石所、森林開発に絡む日馬建設にも曰く因縁があるらしい。
 全てが筒抜けの村で、でも広海には洩らされない秘密の数々。全てを無かったことにしようと囲い込む村の体質に恐れを抱き、疑心暗鬼になった広海は、由貴美を連れて村を逃げようとする。…


 辻村さん、こういうある種思い上がった青少年書くの巧いなぁ。その鼻っ柱が押し潰される瞬間は、ちょっと読んでて辛かったです。珍しく後味の悪いラストでしたし。
 これは、ホラーになるのかしら。旧態依然とした田舎の、ある種閉じられた空間で、っていう舞台設定は何となく小野不由美さんの『屍鬼』を思い出しました。あと、やっぱり横溝正史かな。
 私の中では、多分広海の父親は嘘吐いてるんだろうし、由貴美は見殺しにされたんだろうし、と確定はしてるんですけど、本文の中では匂わせるだけなんですよね。由貴美の母親を自殺に追いやった方法は具体的にどんなのなんだろうなぁ、しかも今頃になってだもんなぁ。
 由貴美のイメージは最初、何故か栗山千明さんで浮かびました。…後半は誰でもなくなってたけど。由貴美が途中で叫ぶ「今が実力の限界だって思って歯を食いしばって、これ以上は到底無理だって思ってるのに、無責任に次を期待される」の言葉には、辻村さんの実感も多少は籠ってるのかなぁ、と邪推してみたり。普通の社会人にも多少はあることなんですが、創作者には特につきまとうことなんでしょうね。でもそういう職業を選んでるんだしなぁ。でもこれ、本当に実写で映画化とかできそう。