読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

トロイメライ 池上永一著 角川書店 2010年

 幕末期の琉球王国を舞台にした連作短編集。

 第一夜 筑佐事の武太
 那覇の涅槃院の住職大貫長老の元に、筑佐事(岡っ引き)見習いの武太が乗りこんできた。親族に黙って墓を売ってしまった真如古(まねこ)を捕まえるためだったが、大貫に反対に、事件の背景をよく調べるよう怒鳴りつけられる。真如古は料理自慢の『をなり宿』に匿われていた。今日も今日とてご禁制の贅沢品ジーマミー豆腐が振舞われる『をなり宿』で、武太は真如古が墓を売った理由を知る。貧しさ故のやむにやまれぬ行動に、情が動く武太。大貫はそれを押して、真如古を裁判にかけろと言う。

 第二夜 黒マンサージ
 王の厨房である寄満の役人・城間親雲上の恋人はジュリ(遊女)の加尼。ある日、『をなり宿』でアダンの新芽に舌鼓を打つ城間親雲上に、加尼の訃報がもたらされる。加尼を殺した上乱暴したのは、清国の冊封使節団の船長だった。ここで船長を裁くと外交問題にまで発展する。高潔で鳴らす喜舎場親雲上も手を出せない。筑佐事の立場を忘れて加尼の仇を取ると息巻く武太の目の前に、巷で噂の黒マンサージの義賊が現れ、あっという間に船長に天誅を喰らわして去る。武太は情と法の間で揺れ動く。

 第三夜 イベガマの祈り
 涅槃院に子供が三人、母親に連れられて来た。それぞれの奉公先を見つけて欲しいと言うのは口実、実際は親に売られたと言うこと。大貫長老は聡明な少女・多根を首里城後宮・御内原に、美しい少女・美戸を高級置屋に、字も書けない、算盤もできない少年・虎寿を糸満売りに斡旋する。過酷な糸満売りの年季奉公を知っている虎寿は、他の二人を誘って涅槃院を逃げ出した。

 第四話 盛島開鐘の行方
 武太の奏でる三線は、名器のように響く。王家が所有する盛島開鐘と間違われ、盗んだと疑われるほどに。幼い頃、疑いをかけられた武太を救ってくれたのは金武筑佐事と言う人格者だった。以来、彼は武太の目標となった。今再び目の前に盛島開鐘を持った女形が現れ名器を差し出すが、武太はそれを拒絶する。武太がそれを手に取るのは、金武筑佐事に負けない立派な人間になった時だから。

 第五話 ナンジャジーファー
 辻で滅法評判のジュリがいる。その美貌は王妃を上回り、舞や琉歌は王宮の踊り手を超え、しかも気位が高く気まぐれなのだとか。名前は魔加那、一晩銅銭一千貫文。一度でいいから姿だけでも拝みたい、どうやら美味しい物に目がないらしい、と男たちは有り金集めて『をなり宿』の賄い三姉妹に中身汁を作るよう依頼する。果たして、魔加那は現れた。男など食い物にするためのもの、と言い切る彼女は実は高貴の出。ナンジャジーファー(銀の簪)を騙し取られた、と詐欺で訴えられても家の力で事件はもみ消される。とうとう身の危険が迫る魔加那を助けたのは、黒マンサージの男だった。

 第六話 唄の浜
 牧志のカンジャースーヤーのサチオバァの体が弱っているらしい。『をなり宿』の部分美人三姉妹と、ジューシー(炊き込みご飯)をお土産にお見舞いに出かけた武太は、オバァの哀しい過去を知る。間もなく亡くなったオバァには墓が無く、オバァを慕う武太たちは心をこめてオバァを送る。…

 連作短編集、というよりも琉球の風習や慣習を紹介しているような小作品。『テンペスト』で出て来た懐かしい顔もちらほら見えてちょっと嬉しい。真美那さんの身内はやっぱりとんでもない人だったのね(笑)。
 何なんでしょうね、この行き当たりばったり感。もっとね、緻密に構成して計算して、ってしたらもの凄いお話になった気がするの。なのに、大まかな筋や着地点だけ決めて、後はいかにもアドリブ、筆の向くまま気の向くまま。だから疑問点も満載で、黒マンサージの正体とか、盛島開鐘の行方とか(『テンペスト』に載ってましたっけ? 私が忘れてるだけかなぁ;)放りっぱなし。いきなり『美味しんぼ』な展開になったりするし、全力疾走後半息切れな作風は相変わらず。
 なのにね、それでも読んでて幸せなの。池上さんの話は、これでいいんだ、と思えてしまう。切ない話でも底辺がとにかく陽性で、暗くなりきらない。私は好きだなぁ。
 これ、続きあるんでしょうねぇ。黒マンサージの正体は知りたいんですが。