読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

九マイルは遠すぎる ハリイ・ケメルマン著/永井淳・深町真理子訳 ハヤカワミステリ文庫 1976年

 米国では1967年に発行。
 純粋な推理だけを武器に、些細な手がかりから難事件を次々に解き明かしていくニッキィ・ウェルト教授の活躍を描く短編集。

 九マイルは遠すぎる
 大学の法学部教授を辞めて、今は郡検事をしている「わたし」に、ニコラス・ウェルト英文学教授は言ってのけた。
 「たとえば十語ないし十二語からなる一つの文章を作ってみたまえ」「そうしたら、きみがその文章を考えたときにはまったく思いもかけなかった一連の論理的な推論を引きだしてお目にかけよう」
 そうして、「わたし」はその場で思いついた一つの文章を提示する。「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」
 ニッキィは推測する、九マイルもの距離を交通手段を使わずずっと歩くとはどういう状況か。時間帯は、何故その時間になったのか、その理由は、九マイルという中途半端な距離はどこから出て来たのか。…そして驚くべき推論が引き出される。

 わらの男
 雑誌の活字が切り貼りされた、指紋だらけの脅迫状。娘を誘拐されたジョン・リーガン博士の元に届いたもの。身代金も払って無事娘も戻って来たが、病身の兄フィリップ・リーガンは私立探偵に依頼した。直後、フィリップは心臓発作を起こし死亡する。この誘拐事件を仕組んだのは誰なのか、フィリップは殺されたのか。ニッキィが事実を整理、推理していく。

 10時の学者
 博士論文審査試験に来る筈の候補者が来なかった。当日、彼は宿泊先で殺されていた。兇器は壁に飾られていた年代物の短剣で、被害者自身のコレクション。だが何故わざわざ壁にかかったものを、使う必要があったのか。本当の兇器を隠すためだったのでは、とニッキィが指摘する。
 
 エンド・プレイ
 チェスの最中に、マクナルティ教授が殺された。「誰かが来たらしい」と対戦相手を残して玄関へ向かい、そこで何者かに銃で撃たれた。落第点をつけられた学生の仕業か、手の込んだ自殺か。現場の写真を見たニッキィは、チェス盤外の駒の位置から、真犯人を突き止める。
 
 時計を二つ持つ男
 心霊現象についての話題で、チザム博士は去年の夏の経験を語り始める。銀行頭取のカートライトは帳簿も時計も正確で、その几帳面すぎる細かさは甥っ子ジャックからも嫌われていた。ジャックが海に向かって銃をぶっ放したある暑い夜、カートライトが階段から落ちて死ぬ。死亡時刻は丁度その頃、この不思議な偶然は関係があるのか。

 おしゃべり湯沸かし
 学会で町はてんやわんや、下宿にもホテル代わりに大勢の人間が詰め込まれている。ニッキィの向かいの部屋に泊まったのはコーヒー党のエリックとお茶が好きなブロジェット。ある日、部屋にはエリックしかいない筈なのに、ポットでお湯を沸かす音がする。彼は何のためにお湯を沸かしているのか。同室のブロジェットへの手紙を開けようとしているのではないか。そこまでして開けたい手紙の中身は。

 ありふれた事件
 大暴雪風の後、雪に埋もれた屍体が見つかった。被害者の婚約者の元カレが疑われる中、ニッキィは何故屍体が雪の中に埋まっていたのかに注目する。ほんの数日間、屍体発見を遅らせたかったのは誰なのか、何が目的だったのか。

 梯子の上の男
 ジョニィ・バウマン教授がガードナー賞を受けた。次の著作はベストセラー間違いなし、ダイクス助教授と共著の予定である。所がバウマン教授は工事現場で足を滑らせて、死体となって発見された。数日後チェスを楽しむために、ニッキィと共にダイクスの家を訪れた「わたし」は、バッド・レッサーと出会う。バッドはダイクスの自慢の家にアンテナを取り付ける約束をし、翌日その作業中に梯子から落ちて死んでしまう。当時の会話を思い出し、ニッキィはダイクスに疑惑を抱く。…

 何か今さらなのですが、読みました。
 言わずもがな、これ、題名いいなぁ。「THE NINE MILE WALK」が「九マイルは遠すぎる」。名訳だなぁ。
 結構強引な推論だったりする作品もあるんですが、でも面白い。私は、翻訳物を読むのに時間がかかる性質なんですが、思いのほかすらすら読めました。
 やっぱり一番は表題作ですね、「九マイルというのはきっちりした距離」「でなかったら約十マイルと表現する筈」なんて箇所は、成程、と納得してしまいました。さすが十四年熟成させた一作だ。
 短編集っていいなぁ、と改めて思った一冊でした。海外物も古典も読まなきゃなぁ。