読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

晩夏のプレイボール あさのあつこ著 毎日新聞社 2007年

 地方都市を舞台に、高校野球にまつわる短編集。

 練習球:
 夏の甲子園、地区予選準決勝。県立采女高等学校は9回表、相手チームに二点のリードを許していた。三年生の鴻山真郷は9回裏の代打に呼ばれる。酒も煙草ものまないのにいつも何かに怒っている風だった父親。幼い真郷を残してあっけなく逝ってしまった父との接点は野球だけだった。真郷が肩を壊し、思うように投球ができなくなって、その苛立ちが真郷を潰しかけていた頃、彼を救ったのは幼馴染みでチームメイトの麓水律だった。

 驟雨の後に:
 野球が好きで、少年野球チームに入っていた加奈。その加奈に、当り前のように、中学以上では女の子は野球ができないんだと伝えたのは転校生・美倉柳一だった。以来、加奈は野球を辞める。高校で再会した柳一は、甲子園出場を狙うような選手になっていた。柳一は加奈に、甲子園に応援に来てくれと頼む。

 梅香る街:
 溺愛する母親を疎み、故郷を離れた甲斐英斗。遠縁からの養子である兄・修也は、英斗には憧れの存在だった。甲子園に出た兄にならって野球をはじめた英斗。兄ほどの才能はなかったが、野球は楽しいものだった。

 このグラウンドで:
 あと一年で県立小沢農林高等学校は廃校になる。最後の野球部の三人、彰浩と有一と信吾は今日もグラウンドで練習する。様々な憂鬱や苛立ちを秘めながら。

 空が見える:
 十歳の息子を喪って二十年になる。野球の好きな子だった。夫との野球を通じた仲の良さに嫉妬したりもした。心の傷は癒えないまま、夫の命は尽きようとしている。病院のTVでは甲子園の中継が流れていた。

 街の風景:
 井伏優流は甲子園で優勝した。待っていたのは空虚感。燃え尽きて何をしてよいかわからない優流は、幼なじみの鶉蔵健斗を見舞いに出かける。健斗ともう一人の幼なじみ・美里とは、もう長いこと会っていなかった。

 雨上がり:
 母親に凡庸だと失望された一登は、豪雨に水量を増した川に魅入られていた。そこで無心に素振りをする高校生の姿を見て、一登は野球に興味を抱く。

 ランニング:
 野崎嘉人は高校から野球を始めた。中学の時、幼馴染の石本奈緒美に誘われて地方大会の野球観戦したのがきっかけ。そのまま魅せられて三番手捕手ながら地道に練習を積む嘉人に、今年入部の期待のエース重村雄大が投球練習を申し入れて来る。

 東藤倉商店街:
 30年ぶりに故郷に帰って来た真野順平。高校の時ランニングで走った商店街は、半分以上が閉まったような状態だった。あの頃から、順平には緊張の糸がふっつり途絶える癖があった。甲子園のマウンドでも、胃癌を宣告された病院でも。そしてあの頃も今も、バッテリーを組んだ本城彰伸は、本当はまだやれる筈なのにと彼を怒る。

 練習球Ⅱ:
 温和な性格の麓水律には、ピッチャーに必要な闘争心が欠けていると言われる。だが小学校でいじめを経験した律は、激しい感情には怯んでしまう。辞めてしまおうかと思った野球の楽しさを思い出させてくれたのは、チームメイトの真郷だった。彼は今、9回裏二死4点差の状態でバットを握っている。…

 多分バッテリーのヒットを受けて依頼されたんだろうな、と察しがつくような短編集。
 高校野球に直接関係があったり、小道具として使われてたり、でも基本は人間ドラマ。あさのぶし特有の粘っこさは控えめで、読み易かったです。よくこんなに色々な話を思いつくなぁ。一人ひとりの名前が凝ってる感じで、どの短編でも愛情が込められてるな、と言うのが分かる作りでした。
 野球だけを美化してる風に見えたのが少し気になったかなぁ。熱中できるもの全般において、誰も成長できるとは思うんですが。