読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

鈍色幻視行 恩田陸著 集英社 2023年

 ネタばれになってるかな、すみません;

 『夜果つるところ』――作家 飯合梓のデビュー作にして代表作。妓楼の中で暮らす、三人の母親を持った子の物語は、映像関係者を惹き込んだ。三度映像化が具体化されて、その都度不幸な事故が起き、「呪われた映画」と囁かれるようになった。
 小説家 蕗谷梢はこれを題材としようと、クルーズ船に乗り込む。『夜果つるところ」の関係者の集いに加わり、彼らにインタビューをするために。
 真鍋綾実と詩織の漫画家姉妹は飯合梓の熱狂的マニアにしてコレクター。自身、母親との確執を持つ。
 角替監督は『夜果つるところ』の最初の映画化の際の助監督だった。最初の妻だった女優の玉置礼子を、撮影中の事故で亡くしている。現在の妻 清水桂子も乗船していて、彼女は二度目の映画化の時、母親の一人として配役されていた。
 『夜果つるところ』文庫化の際の編集者 島崎四郎とその妻 和歌子。島崎四郎は飯合梓と実際に対面したことのある数少ない人物で、『夜果つるところ』の元本になった私家本をこの船旅に持ってきた。
 二度目の映画化の際のプロデューサー進藤洋介。撮影現場の様子や、映画化への想いを語る。
 90歳近い映画評論家 武井京太郎は、現在のパートナー 九重光治郎と共に。光治郎の大叔父は、一度目と二度目、両方の映画に参加していた小道具係だった。武井京太郎自身は、飯合梓と面会したことがあると言う。
 そして、梢の夫 蕗谷雅春。彼の前の妻 笹倉いずみは脚本家で、三度目の映画化の際、脚本を書き上げた直後に自死していた。
 それぞれの思い出話に感化されて、記憶が引き出されて行く。一度目の撮影現場での火事、二度目の密室での心中事件、三度目の脚本家の自死に次いでカメラマンの突然死。作家本人の去就も、二人説があったり 死亡証言が二度あったりしてはっきりしない。
 船の中で、寄港先で、様々な証言や意見が繰り出され、やがてそれぞれの中で一定の解釈に辿り着く。飯合梓の正体は、映画での災厄は。…

 面白かったです。恩田陸版『毒入りチョコレート殺人事件』。
 脱線したり枝葉を広げたり「あるある」を繰り広げたりしながらの会話劇、楽しくて仕方ない。「昔読んでインパクトがあった本を読むのって緊張する」「ある一定の年齢でないとインパクト受けない類の本ってあるよな」「ある程度の地位と固定ファンを得た中堅作家はなかなか書評でも取り上げてもらえなくなる」(直木賞等はそのカンフル剤になるのかな)、そうそうこの感じ、とついつい頬が緩んで来る。
 原作者が持つ映像化への感想も、これは恩田さんのものとして読んでいいのかな。「嬉しいのと同時に、同じくらい嫌なもの」っていうのは。イメージが固定される、っていうのは単なる読者の私でも思うので。
 三度の映画の事故それぞれの疑問点、飯合梓の正体、語り合う本人たちの屈託、全てに一応ケリがつく。三度目のカメラマンの死には言及されてなかった気はしましたが、その関係者はこの場にいなかったということで(笑)。飯合梓については、あれが真相なら、実際会った人は気付くんじゃないかとは思いましたけど。でも、雅春が涙を流す場面には素直に感動しました。ああ、よかったねぇ、よかったねぇ、ってこちらまで安堵しましたよ。梢の心の傷もいい方向に向かって行ったらいいんだけど。彼女の元旦那には本気で眉を顰めました。
 喫煙室にいたタムラ氏(仮称)は、結局何の関係もなかったのか、というちょっとした肩透かしも含めて(苦笑;)、やっぱり好き。
 さて、これから『夜果つるところ』読みに入るんですが、本編で思いっきりネタばらしされてしまってますねぇ(苦笑;)。恩田さんご本人が何かのインタビューで「『鈍色~』の後で読んでほしい」とか仰ってたのでそうしたんですが、楽しめるかな(笑)。いや、恩田さんを信じましょう!