読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ぼんぼん彩句 宮部みゆき著 角川書店 2023年

 俳句を元に想像を広げた短編集。 

 枯れ向日葵呼んで振り向く奴がいる
 経路図を見もせずにバスに乗ったアツコ。結婚式の日まで決まっていた婚約者は、他の女を妊娠させ、「その女と結婚する」と凛々しく告げて去って行った。その後の周囲の対応に呆れ果てるアツコ。バスは終点の〈いこいの丘市民公園入口〉に着いた。

 鋏刺し庭の鶏頭刎ね尽くす
 夫にはずっと好きな女の子がいた。義父母も義妹も、夫がその子と結婚することを望んでいた。その女の子は15歳の時に交通事故で亡くなっているというのに。その女の子の家では、夫のことをあまり認識していないのに。

 プレゼントコートマフラームートンブーツ
 十歳のアタル君に家に押し掛けて来たツダアヤミさん。別れた彼氏から教えられた実家の住所はデタラメだったのだ。。返そうと思っていた彼からのプレゼントで、アヤミさんは臨時のフリーマーケットを開く。

 散ることは実るためなり桃の花
 娘の夫が浮気している現場に出くわしてしまった。夫を亡くしてから、大切に育てて来た娘。どう考えてもカモにされているとしか思えない現状に前々から苛立っていた母親は、桃の節句の日に娘を呼び出す。

 異国より訪れし婿墓洗う
 お盆の墓参りで、琴子は守口夫人に会った。以前ご近所に住んでいた守口氏は、深海から見つかった未知の生物の細胞で病を克服した。琴子の夫は、その新しい技術を使うことを良しとせず、他界した。その判断には、娘の夫の故国が、宗教的な理由でその治療法を認めていなかったことも大きく関わっていた。今、琴子は夫の決断が正しいことを祈っている。それがその治療法に、重篤な副作用があることだとしても。

 月隠るついさっきまで人だった
 五歳年上のお姉ちゃんに彼氏ができた。綺麗になってくお姉ちゃんに、いい恋愛してるんだなと思っていたのに、実際会うととんでもないヤツだった。お姉ちゃんを蔑み、疑い、お金もたかる。「祖母が亡くなったのでお葬式に行く」ことも信じない。暴力まで振るわれて、家族親族一致団結して別れさせることを決意した。

 窓際のゴーヤカーテン実は二つ
 引っ越し先の西日が酷くて、グリーンカーテンをすることにした。ゴーヤを選んでプランターに植えると、立派に育ってくれた。だが、秋を過ぎ、冬になっても実を二つ付けたまま枯れない。実をちぎっても、また二つ生る。気味悪がる妻に対し、夫は気軽に食べてしまった。しかも歯痛が治ったとか。「ラストワンは、君の奇跡のゴーヤだよ」。妻には職場の同僚にマウントを取られる引け目、望みがあった。

 山降りる旅駅ごとに花ひらき
 春恵は何故か、母親から虐められていた。尻馬に乗る形で妹にもバカにされて家に居場所はなく、さっさと自立する道を選んだ。薄給だが調理師として勤めて5年、祖父の死が伝えられた。遺産の形見分けをする、というので親族の定宿の温泉旅館に向かう。相変わらずの冷遇の後、春恵は温泉宿の女将に呼び出され、運命を変える形見分けを貰った。

 薄闇や苔むす墓石に蜥蜴の子
 新しい家に引っ越したケンイチ。裏の丘に小屋があるのが天窓から見えて、探検してみる気になった。トカゲを追ってケンイチは虫眼鏡の落とし物に辿り着き、交番に届ける。それは5年前、行方不明になった男の子のものだった。

 薔薇落つる丑三つの刻誰ぞいぬ
 ケイタと付き合い始めて一か月、なのにミエコはケイタに愛想を尽かしていた。ケイタはミエコにお金をせびり、断ると変な店でバイトさせようとする。別れを切り出すと、夜、ケイタとその仲間に廃病院に連れ込まれた。心霊スポットとして有名な場所で、果たして、そこには不鮮明な女性の姿が。逃げ出したケイタたちに置き去りにされ、ミエコはその女性と相対することになる。

 冬晴れの遠出の先の野辺送り
 兄が死んで、母が「野辺送りをする」と言い出した。火葬場まで、故人の思い出の場を巡って練り歩く。失恋で、おそらく自死した兄。同時期、停電で電車が停まったとかで、中学生の女の子が野辺送りについて来た。終点まで歩くのだという。

 同じ飯同じ菜を食ふ春日和
 数年おきに、親子三人で展望台に来て、近くの店で釜飯と菜の花の天ぷらと大きな茶碗蒸しを食べる。親族の不幸や夫の転職、娘の反抗期や天災等、社会状況も変わって行く。…

 あとがきに曰く、宮部さんの俳句仲間の作った作品をベースに、宮部さんが想像を広げた短篇集だそうで。
 面白かったです。宮部さんの作品にハズレなし、ホラーやサイコやサスペンス、日常譚からSFまで、よくここまで思い付くとも! 俳句だけ読んでいると明るい作品にも思えるのに、こんなに暗くなっちゃうの??と思う作品もあり。
 『窓際の~』なんて、そんなことで産まれた子供を、この人は屈託なく愛せるかなぁと心配になってしまいましたよ。『山降りる~』のお祖父さん、お金残してくれるのは勿論有難いんだけど、もうちょっと大金がよかったなぁ。「お店を出そう」と思ったらその頭金になりそうなくらい。…ってのは私が欲張りなんでしょうね(苦笑;)。
 『枯れ向日葵~』は有川浩さんの『阪急電車』を連想しました。似た題材でも、作者によって描き方が変わるなぁ、と当たり前のことを思いましたね(笑)。中の「結婚する前におやしらずを抜いておいた方がいい」という文言は、確か『長い長い殺人』ってお財布が語る話でも出て来たよなぁ、と懐かしくなりましたよ。
 すらすらと読めましたが、読後感があまりよろしくない(爆!)。これはお話の並びの所為かもしれませんね。つい先日読んだ山白朝子さんの短編集なんて、サイコやスプラッタ満載だったのに、最後の一篇がハッピーエンドだったおかげで後味よかったもんなぁ。
 俳句だけ見たら、の話ですが、個人的に「月隠るついさっきまで人だった」がよく分かりませんでした。月明りで見たら人だと思ったけど実際は別のものだったとか、そういう意味なんだろうか?? でも何か違う解釈もありそうに思ってしまう。ちょっと正解が知りたいと思いました。